

「1秒」というのは、言葉どおり「あっ」とつぶやくしかできない時間の長さです。その間にできそうなことは、とても限られているような気がします。でも、私たちの心臓は1秒に1回脈を打ち、その繰り返しがあるからこそ、今、私たちは生きています。そして、この地球全体で考えると想像を絶することごとがたった1秒間に起きています。
この「1秒の世界」という本は、ひたすら「1秒間で起きていること」を並べている本です。1秒間に人間の小腸で細胞が生まれ変わる量、1秒間に地球が太陽のまわりをまわる距離・・といった、人間や宇宙の営みの事実から、1秒間に全世界で飲まれている炭酸飲料の量、1秒間に消費される電力量などの、現代の大量消費社会の現実、さらには、1秒間に全世界で消失している天然林、1秒間に絶滅している種の数など、地球環境の変化を示すものまで。1秒間に4トンの文書用の紙が使われている! 1秒間に320万円の軍事費が使われている! などは、単純に驚いてしまう数字です。
何かモノを見るときに、いろいろな尺度で見てみる、というのは科学の基本的な手法です。体の中の細胞の様子を拡大してみたり、宇宙全体を眺めてみるのは、大きさ、つまり空間をひきのばしたり、縮めたりしながらモノを見るというやり方。また、1年分の何かの量を平均して、50年分並べてその量の変化を見る、などというのは、時間を縮めて見るやり方。今回の本は、1秒という、ほんとに何気なく過ぎてしまうその「瞬間」を引き伸ばしてみた、というやり方。そのやり方一つで、ものごとというのは、まったく違って見えるものだなあ、ということを改めて教えてくれています。あなたの日常の中の1秒を調べてみるときっとあらたな発見があることでしょう。
この本でとりあげられている「1秒の世界」を、10年後、あるいは100年後、同じ内容で書いてみたらどうなるのでしょう? 100年後でもきっと変わっていないのは、地球が太陽を回る距離や、太陽系が銀河の中を動く距離。1年や10年単位で、どんどん変わっていくのは「経済」、「消費量」そして「環境変化」。人間の力をはるか超えた宇宙の成り立ちの中のちっぽけな私たち。でも、地球全体に大きな変化をもたらしている私たち人間の営み。それらを対比しながら、この数字がどんなふうに変化していくのがいいのかな、私たちは何ができるのかな、と考えさせられる一冊です。
そして、「1秒」というこの時間の長さも私たち人間には誰にも引き止めることができないもの。その1秒が存在することの奇跡を味わうのもまた、この本のポイントかもしれません。
文 高橋真理子
山梨県立科学館天文担当学芸員。北海道大学在学中には、北海道をはじめ全国を自転車でめぐる。名古屋大学理学研究科では、オーロラの研究に取り組む。1997年、山梨県立科学館建設準備室に入り、翌年の開館時より現在の仕事にたずさわる。プラネタリウムにおける解説、番組プロデュース、特別展を含むさまざまな事業の企画・運営を行う。「つなぐ」「つたえる」「つくる」が仕事のキーワード。星の力で、いろいろな分野や人をつなぐことが一番の喜び。小5の男の子と保育園年長の女の子と共ににぎやかな(さわがしい)毎日を過ごす。
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