

「サメ」と聞くと、皆さんは「こわい」とか「どう猛」という言葉を思い浮かべ、また、とがった頭、大きな口、鋭く並んだ歯、獲物をかみ裂く姿なども連想しますね。また、サメが主人公のパニック映画の影響もあり、凶暴な魚としてのイメージが皆さんの脳裏に焼きついていることでしょう。確かにサメは、視覚、嗅覚、聴力も優れ、獲物の出す微弱な電流を感じる器官も備わっていて、4億年もの太古の昔から、海洋において最もハンターとしての能力を研ぎすましてきた生物でした。そして今もなお。
ここまで聞くと、やはりサメは恐ろしい生物と思われてしまいます。この私も、勤務している水族館で、20種120匹以上のサメと10,000匹を超える魚とが同居している大水槽(中には精悍な顔をした全長3㍍ほどのシロワニというサメが6匹もいて)の前で、よくお客様から、「サメは他の魚を食べませんか?」「(掃除や給餌、解説のために潜水している)職員を襲わないのですか?」と質問されます。そこで私は「ヒトは大丈夫」と答えています。これまで15年間、毎日この水槽には職員が何度も潜水し、素手で餌を口元まで差し与えてもきましたが、一度も、サメから襲われたことはありません。一方で魚同士は、お腹がすいてしまうと食べあう事件がたまには発生します。
実はこのことは、サメにとってヒトは食べる相手ではない、という意味なのです。これは、サメとヒトが、海と陸という異なった場所で暮らしてきたので、当然なことではあるのですが……。だからでしょう、私たちは、普段からお付き合いのないサメのことを、あまりにも知らなさすぎではないでしょうか? 本当にサメは怖い生き物なのでしょうか? もし、サメを誤解しているのならば、それはぜひ、改めてもらわねばなりません。
そこで紹介したいのがこの本「世界サメ図鑑」です。あなたはこれまで、サメのことをどこで学んできましたか? ひょっとして「あの映画だけ」なんて言わないでください。あの映像は、とある外国の映画監督が作りましたが、この本の著者は、実はイギリスのロンドン自然史博物館にもおられた動物研究者のスティーブ・パーカーさんで、またこれを翻訳した方は、日本のサメ研究で最も著名な北海道大学名誉教授の仲谷一宏先生で、このお二人の手による最新のサメの科学図鑑なのです。しかも、サメの体の仕組みや生態だけでなく、文化的な位置づけや伝説も紹介したり、種類ごとの詳しい解説、世界中で調査した貴重なカラー写真の数々に、きっとサメのとりこになっていくに違いありません。
冒頭に、サメには4億年もの歴史があると紹介しましたが、彼らは脊椎動物の大先輩で、私たちヒトが登場するずっと前から、この地球の生物進化の生き証人として存在してきました。脊椎動物がやがて陸上に進出しても、サメたちはずっと頑固に海中での生活にこだわってきたのです。私たちの生命の古里でもある海で、彼らはなぜ今の体を守り抜いてきたのでしょう。また、その証拠は体のどこに残っているでしょうか? ほら、そんなことすら知らずに、やたら怖がっていたり、はたまた逆に、フカヒレや健康食品や化粧品などとして、自分たちにいいように利用しているだけではないのですか?
そろそろ、サメの本当の姿や存在を考えてあげてはどうですか? 地球は今、気候や環境変動の影響で、大きな生物生態系の危機が問題になっています。2010年は国際生物多様性年です。この機会に、生命の源である海で、主としてあり続けてきたサメのことをもっと学んでみましょう。きっとサメ達から、これからの生き方のヒントをたくさんもらえるかもしれません。
高田浩二
1953年、大分生まれ。東海大学海洋学部卒業後、大分生態水族館(マリーンパレス)入社。1988年、海の中道海洋生態科学館に入社、2004 年に同館長に就任。水族館と学校との連携による教育プログラムの開発、実施に力を入れる。日本動物園水族館教育研究会会長、福岡教育大学非常勤講師、福岡大学非常勤講師、九州産業大学非常勤講師などを務める。