

著者の小林先生の専門は、動物行動学と人間比較行動学。動物行動学という学問は、最近になってだいぶ知名度が上がってきましたから、聞いたことがある人もいるでしょう。でも、人間比較行動学なんて学問は、あまり聞いたことがありません。名前だけ聞くとすごく難しそうで、え? それって、人間の何を比べるの? 何をやる学問なの? と思ってしまいますが……本の冒頭で、小林先生がちゃんと説明してくれていました。
それによれば、『動物行動学というのは「動物の行動を、進化的な視点から理解しようとする生物学」で、人間比較行動学というのは、「人間という動物を対象にした動物行動学」』なのだそうです。
と言われても、まだよくわからないけれど、この本を全部読むと、なんとなくわかったような気になる……ような気がする、かな。
小林先生は、春の浜辺で、夏の森で、秋のアメリカで、冬の川原で、いろんな生きものに出会います。自然の中に分け入って生きものを見かけることなら普通の人にもできるけれど、小林先生がすごいのは、生きものそのものだけではなく、そこにいた生きものの気配や生活の跡を見て、そこに誰がいてなにをしていたのかをピタリと当ててしまうこと。
ただ歩いていたらきっと見落としてしまうような微かな跡に目を向けて、生きものの生活を読み取る方法が、浜辺を例に詳しく紹介されています。生きもの好きで海の近くに住んでいる人は、ぜひ小林先生のやり方で「ビーチ・リーディング=砂浜で、生物やそのかけら、あるいは、その跡などから、“生物の生活のニオイ”を感じ取る作業」を試してみてくださいね。
小林先生が観察するのは、自然の中にいる野生の生きものだけではありません。自然の中で、街の中で、あるいはタクシーの中で出会うさまざまな人=ホモ・サピエンスの行動をつぶさに観察して、その行動が何によって引き起こされるのか、私たちホモ・サピエンスがたどってきた進化の過程から答えを導き出していきます。
これまではほとんど意識してこなかった行動にも、長い長い進化の中で身に付けた「生き抜くための知恵」のようなものが影響していることに驚かされます。これが、「人間比較行動学」なんですね。
でもこの本、堅苦しい学問のお話ばかりじゃありません。小林先生独特のユーモラスな語り口で、いろんな生きもの(小林先生自身や家族も含む)のいろんな姿が描かれています。
小林先生は、いったいどんな顔でみんなを観察してるんだろう、そんなことを想像しながら読み進めるのも、きっと面白いですよ!
文 竹内 薫
科学評論、エッセイ、書評、講演などを精力的にこなす「猫好き科学作家」(サイエンスライター)。テレビ、ラジオでキャスター、ナビゲーターなども務める。科学の真面目な解説書から、それを小説風に料理したSFタッチのショートショート、SFか現実かわからない不可思議なミステリーなど、その著書は多岐にわたる。
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