

今から7年前の2003年、アメリカから「ファイディング・ニモ」という映画が日本にやってきました。オレンジ色の体に白いしま模様があざやかな“カクレクマノミ”にとても近縁のサンゴ礁にすむ熱帯魚の父と子が主人公でした。スクリーンに繰り広げられる家族愛に感動し、自然環境の大切さを感じた方も多いことでしょう。私の水族館でも、この魚の前では「ニモだ~!」と歓声があがり、未だに人気は衰えていないようです。
この映画は、ディズニーとピクサーという動物のアニメーション映画ではとても有名なチームによる制作で、アカデミー賞の長編アニメ賞を受賞し、ずいぶん高い評価をされたようです。ところが私は、この映画は科学的には大きな間違いをしていると、とても残念に感じている一人です。そして、今回紹介する絵本「クマノミは大きいほうがお母さん」を執筆された鈴木克美先生も、きっと私と同じ思いであるに違いありません。
というのは、映画のストーリーを思い出すと、最初のシーンで、家族が大きな魚に襲われ「お母さん」がいなくなり、加えて、子どもの「ニモ」が人にさらわれてしまいます。そして、お父さんは、息子を助けるためにサンゴ礁の魚たちと力をあわせて奮闘し、無事に救出できて再会するというハッピーエンドのお話でした。
では、このどこが「科学的でない」のでしょうか? 「魚が自分の子どもを助けに行くはずないってですか…。確かにそうですが、そこは三歩ほど譲って、実は、ニモのお父さんは、お母さんがいなくなった時に、「お母さんに変身」しなければならなかったのです。つまり、ニモを取り戻しに行ったのは、お父さんでなくお母さんであり、この映画は、父性愛でなく母性愛を描いたお話である必要があったのでした。
さて、そのことを証明してくれる絵本が、この「カクレクマノミは大きいほうがお母さん」です。クマノミの仲間は、母親を長とした家族をつくります。だから、体も一番大きいのですが、これは、卵をできるだけたくさん産むためでもあります。そしてその次に大きいのがお父さんで、二尾がペアになってイソギンチャクの根元に卵を産み、特にお父さんは、卵がふ化するまで大事に世話をします。また、家族にはやや小さな子どもが周りに数尾ほどいるのですが、ここからが、ちょっとややこしいのです。
クマノミの仲間は、お母さんがいなくなると、お父さんがお母さんに変わる魚です。そしてその次に、周りにいた子どもの中から一番大きなものがお父さんになります。つまりクマノミには、お母さんになるための順番があり、家族に事件が起きてもすぐに卵を産むことができるという、とてもふしぎな生活をしている魚なのです。
この絵本では、そんなクマノミたちの生活が、楽しく分かりやすく紹介されています。筆者の鈴木先生は、東海大学海洋科学博物館にご勤務されている時に、館の職員の皆さんと一緒に、この魚の繁殖の研究をされ、たくさんの成果を残されています。だから、子どもの成長の様子だけでなく、イソギンチャクと一緒に暮らす仕組みなど、誰よりもクマノミに詳しいのです。もちろん、ディズニーよりもずっとずっとです。ほら映画は、こんなとても重要なクマノミの生き方を紹介できていないのですから、科学的に大間違いをしていると言われてもしかたないですよね。
大きな画面の映画も楽しいですが、時には海の生き物の絵本を、親子で一緒に読むのも夏休みのいい経験になると思います。そして水族館の水槽では、誰がお母さんで誰が父さんか、ぜひ探してみてください。
高田浩二
1953年、大分生まれ。東海大学海洋学部卒業後、大分生態水族館(マリーンパレス)入社。1988年、海の中道海洋生態科学館に入社、2004 年に同館長に就任。水族館と学校との連携による教育プログラムの開発、実施に力を入れる。日本動物園水族館教育研究会会長、福岡教育大学非常勤講師、福岡大学非常勤講師、九州産業大学非常勤講師などを務める。
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