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アインシュタイン丸かじり

アインシュタイン丸かじり
  • 2010年08月25日鈴木真二
  • 著者:志村史夫 
    発行:新潮新書  
    ISBN:978-4-10-610207-3 定価:714円(税別)
    発行年:2007年3月19日
  • 書評:鈴木真二

「アインシュタイン丸かじり」

TVの科学番組のコメンテーターをしていますが、先日の話題は宇宙の「暗黒エネルギー」でした。「暗黒」と言っても邪悪なエネルギーという訳ではなく、「未知」のエネルギーという意味で安心しました。現在の宇宙物理学の最もホットな話題の一つなのだそうです。

「暗黒エネルギー」の存在が明確になったきっかけは、1990年代にハッブル衛星に搭載された望遠鏡などで、はるか遠方の銀河まで見えるようになったことでした。これらの銀河は地球から加速して離れていることが観測されたのです。宇宙がビッグバンによって発生し、膨張しているという話は常識でしたが、加速して離れているという観測結果は驚くべきものでした。つまり、加速して離れるためには、万有引力ではない、銀河を離れさせる何らかのエネルギーが宇宙に存在しないと説明がつかないのです。しかも、そのエネルギーは離れれば離れるほど強くなるという不思議な性質を持つのです。

人類の歴史のなかでも、新しい観測が、新しい理論につながった例は数多く存在します。月や木星の衛星を望遠鏡で観測したガリレオは、地球が宇宙の中心では無いとする地動説を支持することになりました。精密な惑星の観測から、ケプラーは惑星の運動に関する3つの法則を導き、その運動を説明するために、ニュートンは万有引力の法則を導いたのでした。正確に観測する技術が発達すればするほど、それまで常識と思われたことが覆(くつがえ)される新しい法則や理論が創りだされてきたのです。

「暗黒エネルギー」は実はアインシュタインがそれとは知らずに仮定したものに近いものでもありました。アインシュタインの相対性理論は難しいのですが、彼がなぜそれを導いたかという話は大変興味深いものです。

例えば、特殊相対性理論は、光の速度は測定方法に関係なく一定であるということを導きました。皆さんが、飛行機に乗っている場合は、飛行機は高速に飛んでいますので、地上から見れば、皆さんはすごい速度で移動していることになります。ただし、飛行機の中の人から見れば、そんな速度は感じられません。速度は観測者から見た相対的なものなのです。そんな常識は光の速度には通用しませんでした。光の速度はどのように運動する方向から測っても一定であることをアメリカのマイケルソンとモーリーが1887年に見つけたのです。ここからアインシュタインは大胆にも「光速不変の原理」を仮定し、特殊相対性理論を導いたのでした。

アインシュタインはさらに「一般相対性理論」を導くのですが、それは重力が空間の歪みによって発生するというものでした。これも大胆な仮説ですが、遠方の星の光が太陽によって向きを変えることが実際に観測され、アインシュタインの仮説は実証されたのでした。

アインシュタインは「一般相対性理論」により宇宙を説明しようとしましたが、困ったことがありました。彼の理論では宇宙は膨張したり、縮んだりしてしまいます。アインシュタインは、宇宙は大きさを変えないものと思っていましたので、これは不都合でした。そこでアインシュタインは宇宙項という、宇宙の大きさを変えないための項を導入しました。しかし、アメリカの天文学者ハッブルが、宇宙が膨張していることを観測したため、アインシュタインは宇宙項を取り下げたのでした。ただ、最近の観測では、宇宙は単なる膨張ではなく、加速して大きくなることが分かったのです。現代の天文学者たちは、アインシュタインの宇宙項を「暗黒エネルギー」として再びよみがえさせるべきであると考えているそうです。ただ、その正体はいまだに不明なのだそうです。

現在でも宇宙の真の姿はわからないのは不思議ですね。アインシュタインも「重要なのは疑問を持ち続けることです。好奇心というものは、それ自体に存在理由があるのです」と言っています。今回、紹介する本は、アインシュタインの魅力を若い皆さんにも分かりやすく伝えてくれます。大いに「好奇心」を膨らませてください。

文 鈴木真二
東京大学大学院教授、専門は航空宇宙工学。飛行ロボットから、落ちない飛行機の操縦・制御技術など、幅広い研究に取り組む。日本航空宇宙学会監事、「紙ヒコーキ博物館」(広島県福山市)の名誉館長も務める。NHK教育『サイエンスZERO』のコメンテーターとしてもおなじみ。

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