![]()

みなさんは、”ローレンツ・アクアリウム”という言葉を聞いたことがありますか? 聞いたことのある人はあまりいないかもしれませんが、それと同じことをやっている人はきっといると思います。
きれいな小川や沼、池から、そこにある土、水草、小魚や小エビなどを採ってきて、水槽に入れます。空気ポンプなどは使わずに、水草が光合成で出す酸素と、水のなかにいる微生物たちを糧にして、魚やエビなどを育てます。そのフンや死がいは、微生物や水草の栄養分となり、水槽のなかで、小さな生態系をつくるのです。これが”ローレンツ・アクアリウム”。『ソロモンの指輪』の最初のほうで、生き物と身近に接する最も簡単な方法として、紹介されています。
ローレンツ博士は、”刷り込み”というものを発見したことで有名です。鳥のヒナが卵からかえるとき、初めて目にしたものを親だと思う、という現象を発見しました。ローレンツ博士は、鳥のヒナたちをお散歩に連れて行くのに、「グエッ、グエッ」と声を上げながら、草むらのなかを四つんばいになっていたそうです。
また、ローレンツ博士の家には、家族のほかにもたくさんの動物たちがいました。なかには、危険な動物やいたずら好きな動物もいます。ローレンツ博士は、幼い娘さんが万が一けがなどしないように、動物のほうではなく、娘さんをオリのなかに入れていたという有名なエピソードもあります。ローレンツ博士は、動物たちをオリに閉じ込めたり、切り刻むことなく、一緒に生活をしながら研究を続けていた人なのです。
このように、ローレンツ博士は人間だけでなく、そのほかの生き物たちをとても愛していました。その動物たちとの温かい暮らしぶりが、この本のなかにはたくさん詰まっています。人に恋してしまった小鳥、ノーベル賞受賞のきっかけとなったハイイロガンたちや、生涯の友達だったコクマルガラスたち。犬もサルも出てきます。”動物行動学入門”と書いてありますが、難しいことなどありません。動物の好きな人なら、わくわくしながら読むことのできる、とても楽しい本です。
文 竹内 薫
科学評論、エッセイ、書評、講演などを精力的にこなす「猫好き科学作家」(サイエンスライター)。テレビ、ラジオでキャスター、ナビゲーターなども務める。科学の真面目な解説書から、それを小説風に料理したSFタッチのショートショート、SFか現実かわからない不可思議なミステリーなど、その著書は多岐にわたる。