

みなさんは「物理学者」というとどんなイメージをもっていますか? 眉間に皺をよせて、黒板に意味のわからない数式をたくさん書きまくる人・・・・。そんな感じでしょうか。
ところで、物理学者で知っている人はいますか? え、なになに? ニュートンとガリレオとアインシュタイン? うーん、たしかに世界的な有名人たちですね。でも、少し古いかな。今どきの物理学者の姿とはちょっとちがうような気がします。
そこで、みなさんに、現代のカッコイイ物理学者の代表をご紹介しましょう。その人物の名はリチャード・ファインマン。惜しくも二十年ほど前に亡くなりましたが、科学界では「伝説」として語り継がれている偉人です。
ファインマンさんの素顔を知るのに絶好の本が『ご冗談でしょう、ファインマンさん』という自伝です。自伝といっても、ユーモアたっぷりの語り口は、まるで小説か漫画を読んでいるかのよう。あまりの面白さに一気に終わりまで読めてしまう本です。
この本のなかで私が一番好きなエピソードは「アリ」の実験です。ファインマンさんは物理学者ですが、子どものころから科学が大好きだったので、自分でいろいろな実験や観察をしていたのです。それは大人になってからも続いていたようです。ファインマンさんは何度も何度もアリの「フェリー」をつくって実験をしました。フェリーに乗るとエサ場に「ワープ」させる(=ファインマンさんが手で運ぶ)のです。この方法で、ファインマンさんは、自分のスナック菓子置き場にたかるアリたちをフェリーでどんどん別の場所の砂糖へと誘導し、自分のお菓子を守ることもできました。
笑いでいっぱいの自伝にも哀(かな)しい場面が出てきます。ファインマンさんの最初の奥さんが亡くなるシーンです。ファインマンさんは仕事に熱中していて、病床の奥さんを看取(みと)ったあとも、すぐに仕事に復帰しました。でも、心の底では哀しさを抑えていたのです。ですから、何年もたってから、街を歩いていて、ふと見たウィンドウのなかに飾ってある洋服を見て、突然、とめどもなく涙があふれてきたといいます。亡くなった奥さんが着たら似合うだろう、と思ってしまったからだそうです。
人間味あふれる物理学者の自伝。とっても面白いので、ぜひ一度、読んでみてください。きっと、あなたの物理学と物理学者に対するイメージはガラリと変わることでしょう。
文 竹内 薫
科学評論、エッセイ、書評、講演などを精力的にこなす「猫好き科学作家」(サイエンスライター)。テレビ、ラジオでキャスター、ナビゲーターなども務める。科学の真面目な解説書から、それを小説風に料理したSFタッチのショートショート、SFか現実かわからない不可思議なミステリーなど、その著書は多岐にわたる。