

もしもいま、恐竜(きょうりゅう)が生きていたら……誰(だれ)もが一度は考えるロマンです。ネス湖のネッシーも(これはイギリスのおじさん達のイタズラだったことが最近わかってしまいましたが)屈斜路湖(くっしゃろこ)のクッシーもナウエルウアピ湖のナウエリート(アルゼンチンの湖で目撃(もくげき)された謎(なぞ)の生きもの)も、「いまも実は、恐竜は生きているんじゃない?」という気持ちが、これら謎の生きものの探索(たんさく)に人々を向かわせるのでしょう。映画「ジュラシック・パーク」はその夢を映画の中で実現させましたね。
いっぽうで、恐竜図鑑(ずかん)というと、ものすごく大きなシダの林の中でT-レックスとトリケラトプスが格闘(かくとう)していたり、火山の爆発(ばくはつ)を背景にプテラノドンが空を駆(か)けめぐっていたりするのが普通(ふつう)です。なにしろ、動いている本物を誰も見たことがないので、その姿(すがた)はあくまでも想像。うまい挿絵(さしえ)画家さんが描(えが)けば恐竜たちは生き生きとしていますが、どことなく嘘(うそ)っぽい……
その点、この本は、まず表紙を見て思わず笑っちゃいます。空港の滑走路(かっそうろ)で立ち往生するジャンボジェット機の間を、恐竜たちが我(わ)がもの顔でうろうろしているんです。僕(ぼく)が一番気に入っているのは、ラッコがお腹の上にアンモナイトをのせて食べようとしている衝撃的(しょうげきてき)な一瞬(いっしゅん)を捉(とら)えたイラスト、というか写真?!
そうなんです。この本は、いま、恐竜が生きていたら、僕たちがいつも見ている風景の中でどんな風にふるまっているだろうか、という想像を、イラストや合成写真で見事に映像化(えいぞうか)しているんです。今までの恐竜図鑑よりもずっとリアルで、逃(に)げも隠(かく)れもしていない堂々(どうどう)とした姿の恐竜たちにびっくりすることうけ合い。
本の中で、草食恐竜、肉食恐竜、海生生物、空飛ぶ竜と分類された古代の生きものたちは、競馬場を疾走(しっそう)したり漁網(ぎょもう)にひっかかったり飛行機の行く手を邪魔(じゃま)したりと、人間の生活空間の中でその存在(そんざい)を主張しています。でもそれは、いわゆる怪獣(かいじゅう)映画のような登場のしかたではなく、あくまでも「それが普通」という描き方をされているのです。だから、時には航空機の安全を守るために恐竜の侵入(しんにゅう)を阻止(そし)しないとダメだったり、逆に人間の食べ物として獲(と)られすぎないよう、保護する必要も出てきます。
実際には、恐竜が生きていた時代と今とでは空気の成分や食べ物が違(ちが)いすぎるので、もし恐竜が現代に現われても生きていくことは難(むずか)しいだろうと言われています(もちろん、そのことも本の中に書かれています)。でも、そんなカタイことは言いっこなし! 空想の翼(つばさ)を大いに羽ばたかせて、思う存分(ぞんぶん)、恐竜たちのステキな姿を楽しんでください。
文 竹内 薫
科学評論、エッセイ、書評、講演などを精力的にこなす「猫好き科学作家」(サイエンスライター)。テレビ、ラジオでキャスター、ナビゲーターなども務める。科学の真面目な解説書から、それを小説風に料理したSFタッチのショートショート、SFか現実かわからない不可思議なミステリーなど、その著書は多岐にわたる。