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決断力

決断力
  • 2009年10月14日鈴木真二
  • 著者:羽生 善治 発行:角川書店
    ISBN:978-4047100084  定価:686円(税別)
    発行年:2005年7月
  • 書評:鈴木真二

決断力の極意とは

先日、羽生名人の講演をお聞きする機会がありました。科学の本ではありませんが、教えられる点が多かったので、今回は羽生名人の本を紹介したいと思います。将棋(しょうぎ)は古代インドにおいて戦争好きの王様に戦いを止めさせるために、戦いを模したゲームを高僧が作って献上(けんじょう)したのが始まりとされています。その後、いろいろな形で世界に伝わりました。日本の将棋は、9かける9の升目(ますめ)とコンパクトなのですが、奪った駒を再び使うことで奥が深いものとなったそうです。俳句や短歌が短い中に深く意味を込めるように、将棋も日本的な発達を遂げたと考えられています。羽生名人は小学1年生で将棋を覚え、中学生でプロとなり、25歳で将棋界初の7冠を達成した将棋史上最強の棋士の一人と言われています。

こんなに強い羽生名人です。さぞかし先を読んで作戦を立てていると思いましたが、そうではないようです。コンピュータであれば、計算能力の限り先を読むことが出来ますが、名人は、直感に頼るといっています。直感は過去の経験から得られたもので、脈絡のない「ひらめき」とは違うといいます。戦局を大局的に感じ取ることはコンピュータにはない人間にしかできない技だそうです。そうした直感力を養うのは実戦経験であるといいます。今では、過去の試合がコンピュータに全て保存されているので、コンピュータを利用すれば、1分間で1つの試合を振り返ることができるそうです。でも、それでは記憶にのこらず、直感力の養成にはなりません。記憶に残すためには5感が必要です。ノートに書き込んだり、実際に駒を並べたりするそうです。ちょうど歌を覚えるのに似ていて、全体のつながりの中で試合を覚えるのだそうです。

直感を身につけることは、「知識」を「知恵」に高めることだといいます。「知識」は単に知っていることですが、それを使いこなすには無意識に知識を駆使できる「知恵」が要求されるのです。情報があふれた現代では、「知識」を得ることは簡単ですが、それを「知恵」に高めるためには実際に「知識」を使って実体験することが必要と名人は説いています。それに「知識」は直ぐに古くなりえます。将棋の戦略も年々新しくなるそうです。「知識」を「知恵」まで高めておけば、応用が利くので、新しい戦略にでも対応できるといいます。

羽生名人の話は、将棋の話ですが、みなさんの学校の勉強にもつながっていると思います。学校の勉強も「知識」を得るためだけではありません。生きるための「知恵」を身につけるためなのです。そのためには、実際に自分で可能な限り「知識」を体験して身につける努力が必要なのだということを感じました。

文 鈴木真二
東京大学大学院教授、専門は航空宇宙工学。飛行ロボットから、落ちない飛行機の操縦・制御技術など、幅広い研究に取り組む。日本航空宇宙学会監事、「紙ヒコーキ博物館」(広島県福山市)の名誉館長も務める。NHK教育『サイエンスZERO』のコメンテーターとしてもおなじみ。

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