HOME > ナビコラム
密度なんてへっちゃらさ!
2009年01月21日 土佐幸子(ボストン科学博物館講師)
![]() 写真1:ストローと粘土で作った比重計で、いろいろな液体の密度を比べる子どもたち |
米国ボストン近郊(きんこう)に暮(く)らし、子どもと科学の接点でさまざま活動に携わる土佐幸子さんに、米国の科学事情や、子どもたちと科学教育をめぐる楽しいお話をつづっていただきます。
「密度
(みつど)」と聞くと、みなさんはどんなイメージを描(えが)くでしょう。この言葉
を日常生活で使う機会は、あまりないかもしれません。理科の授業で、密度
について習った人もいるでしょう。「一定体積あたりの質量
を、その物質の密度
といい、ふつう物質1cm3あたりの質量
で表す。物質は、密度
で区別することができる」と手持ちの中学校の教科書(「新編新しい科学1分野上」東京書籍 平成20年2月
10日発行)には書いてあります。はて、密度
とは物質のどんな性質をいうのでしょう。わかりやすく説明できないでしょうか。
アメリカでも、密度
は中学校の理科で習う内容の一つになっています。私の住んでいるマサチューセッツ州では、公立学校に通う児童・生徒全員が、MCAS(エムキャス)と呼ばれる州の統一学力
テストを受けるシステムになっています。去年の8年生(日本の中学2年生)が受けた理科の問題の中に、密度
に関する記述式の問題(答えを文章で述べる問題)がありました。そのせいか、この秋に私が見学に行った中学校の授業でも、密度
を学習していたところが4クラスありました。多くの先生が「密度
=質量
÷体積ですよ。」と説明していらっしゃいました。教科書にもそのように書いてあります。確かに、密度
を数値で求めるためには、定義の式が大切です。しかし、式を知らなくても、密度
の考えを使って、目
で確かめながら物質を比べられないものでしょうか。
そんなことを考えながら、私は、アクトン市にあるディスカバリー・ミュージアムで「密度
なんてへっちゃらさ!(Feeling Light about Density)」というトーク(お話の会。ここでは小さな実験ショー)をしてきました。朝からの大雪
にもかかわらず、会場には数組の家族連れが集まりました。
酢
と油でできたサラダドレッシングから話を始めます。みなさんは、ドレッシングを使う前に何をしますか?もちろん、よく振(ふ)って混ぜますね。なぜ振らなければならないのでしょうか。サラダ油が3分の1ぐらい入ったボトルに、青く色をつけた水
を注ぎます。水
は油の上に行くかな?それとも下に行くかな?「順番だから、水
は上よ」と一人の子が答えると、「いや、水
のほうが重いから下に行くよ」と他の子が反論します。よくわからないことがあったら、実験すれば結果がわかるのが科学のよいところ、と実際に注いでみれば、青い水
は、たとえ数滴でも、油の層を通り抜(ぬ)けて下に行きます。青と黄色にきれいに分かれた2層ができました。水
は油より密度
が大きいからです。これを振ってみましょう。元気に手を上げた一番小さい参加者にボトルを振ってもらうと、全体が水
色に混じった液体
ができました。子どもたちは、熱
い視線をボトルに注いでいます(写真2)。油はどこへ行っちゃったの?「中!」、水
は?「中!」、でもしばらくすると?「ほら、もう上のところが透明だよ」、どうして?「油は密度
が小さいから!」。素晴(すば)らしい会話の連続です。
次は、いろいろな液体
の密度
を比べてみます。使うのは短く切ったストローの先に、粘土(ねんど)の玉をつけたものです。水
に入れると、ちょうど浮きます。このように、密度
を比べる道具を比重
計(ひじゅうけい)と呼びます。この比重
計をホットケーキのシロップに入れてみましょう。あれあれ、先の粘土の部分だけしか沈みません。水
よりももっと浮く力
を受けています。シロップは水
よりも密度
が大きいのです。では、比重
計を油に入れると?どちん、と粘土が底についてしまいました。水
よりも受ける浮力
が小さい、つまり、油は水
よりも密度
が小さいことがわかりました。こうやって6種類の液体
を調べ、密度
の大きい順に並べました。さらに、その順番に液体
をメスシリンダー
に入れていくと、6層の重なりができました。ストローの比重
計で調べた結果が、本当に正しいことが確かめられたのです。その中に硬貨(こうか)、レーズン、プラスチック
のビーズ、発泡(はっぽう)スチロールの切れ端(きれはし)などを入れ、どこで留まったかを見ると、固体
の密度
を調べることもできました。
この後、子どもたちは自分の比重
計を作って、いろいろな液体
の密度
を比べました(写真1)。密度
の大きい、小さいを、実際に自分の手と目
で確かめます。子どもたちと一緒に付き添(そ)いの大人も発見しています。「粘土のつけ方で、ストローの立ち方が違(ちが)うんですね!」ええ、でもそれは密度
の違いではなくて、重心の位置の違いなのです。「あのお母さんは、きっと家で家中の液体
を集めてきて実験するわよ!」とミュージアムの職員のデニースが私にささやきます。家庭に科学を持ち込(こ)んでくれたら、こんなうれしいことはありません。
今日のトークは、朝からの大雪
にもかかわらず、熱
心な参加者のおかげで充実(じゅうじつ)した時間になりました。ミュージアムからの帰り道、まだ降(ふ)る雪
の中をのろのろと運転しながら、私の心はホカホカでした。科学的な考えを、覚えるのではなく、「ああ、なるほど!」と納得してもらう・・・そんな場面を作れた喜びでした。この春は、大学生に物理を教える中で、その目
標に挑戦(ちょうせん)します。
ディスカバリー・ミュージアムのホームページ:
http://www.discoverymuseums.org/
土佐 幸子(とさ・さちこ)
米国ロチェスター大学大学院修了。物理学博士。科学を通して「考える喜び」を伝えようと、1995年より米国ボストン科学博物館で子どものための科学教室を教える。日本の科学館、教育機関が実施するワークショップでも講師として活躍。ボストン在住。現在、マサチューセッツ州立大学ローエル校教育学大学院博士課程に在籍し、理科の探究的な指導について研究を進める一方、この春学期は非常勤講師として、学部学生に物理を教える。著書に『ライト兄弟はなぜ飛べたのか』(さ・え・ら書房)、訳書に『クォーク
の魔法使い』(ロバート・ギルモア著、培風館)などがある。


