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コラム

「物理学はおもしろい!」:アメリカの大学生が見せる学びの意欲

2009年02月18日    土佐幸子(ボストン科学博物館講師)


写真1:「一般物理学II」の講義室風景

米国ボストン近郊(きんこう)に暮(く)らし、子どもと科学の接点でさまざま活動に携わる土佐幸子さんに、米国の科学事情や、子どもたちと科学教育をめぐる楽しいお話をつづっていただきます。

私の所属するマサチューセッツ州立大学ローエル校では、1月 末から春学期が始まりました。5月 までの15週間、学生たちはほぼ休みなく勉学に励(はげ)みます。私はこの春学期から、物理学科の非常勤講師として、学部生に「一般物理学II」を教え始めました。生物学・地球科学・環境科学など、物理学以外の理系科目 を専攻(せんこう)する29名の学生と、週3回顔をあわせ、電磁気学に始まるぶ厚い教科書をこなしています。毎回の講義が、学生たちと物理学的な考え方をキャッチボールする充実(じゅうじつ)した時間です。今回はその様子をご紹介(しょうかい)しましょう。


写真2:黒板を使って講義をする筆者。電子の流れは、プラスの電荷をもった粒子が反対向きに流れることと等価であることを説明する *クリックすると大きくなります。さらにマウスをおしながら自由に動かせます。

学期が始まる前は、アメリカの大学生を相手に一体どんな講義ができるだろうかと、かなり不安がありました。特にこの大学は、都市部にあって自宅から通える学校ということもあり、学生たちのニーズもレベル も様々です。ただでさえ、物理学専攻ではない学生にとって、物理学入門コースは「わからないもの」というのが、どこの大学でも常識になっています。そのような中で、学生たちが私の言うことに耳 を傾(かたむ)けてくれるのだろうかと不安でした。ところが、その不安は、講義の第1日目 にして、軽く吹(ふ)き飛んでしまいました。この物理学入門コースは、理系専攻の彼らにとって、選択科目 (自分で興味・関心があり選んだ科目 )ではなく、必修科目 (必ず受けなければならない科目 )です。それでも、学生たちは物理学の法則を理解したい、問題が解けるようになりたいという思いを強く持っていました。昨年秋の力 学の講義の内容がよくわからなかった人は?と尋(たず)ねると、3分の2が手を挙げました。理解したいと思いながら、それができなかったこと、そして、この春学期には、その状況(じょうきょう)を打開したいという学生の思いが強く伝わってきました。学生に勉強する気があるなら、それだけでしめたものです。こちらは学生の理解したいと思う気持ちに応(こた)えて、なるべくわかりやすく材料を提供していけばよいのです。


写真3:真剣にノートを取る学生たち *クリックすると大きくなります。さらにマウスをおしながら自由に動かせます。

とはいえ、物理学というのはかなり抽象的(ちゅうしょうてき)に数学の言葉 を使って記述されていますから、一つ一つの式が何を意味するのかを理解するのは、やさしいことではありません。また、数式を使って問題を解くことに慣れるにも、かなりの努力 が必要です。私は、学生が理解しやすいように、簡単な実験を見せることも含(ふく)めて、いろいろな方向から攻(せ)めていくことにしました。スクリーンに映(うつ)し出すのは、今日の講義メニューのみ。解説はすべて黒板を使って、その場で図やグラフを描(えが)きながら進めていくことにしました(写真2)。学生たちがどんなに真剣(しんけん )に講義に集中しているか、写真を見てください(写真3)。ほぼ全員が熱 心にノートを取っています。内容がわかれば、ウンウンとうなずいてくれます。少しでもわからないことがあれば、どんどん質問してきます。自分が理解することが、学生たちの最大の関心事であるのです。「物理学はおもしろい!」と思い始めた彼らに、もっとわかりやすく、と言葉 や内容を選んで教えることは、なんと手ごたえのあることでしょう。<写真3>

それでも、物理学的な考え方を習得するには時間がかかります。毎回の講義の最後に行う「理解度チェック」の問題に、最近になってようやく 75-80%が正答するようになりました。最初は25%程度だったのが、一挙(いっきょ)に上昇してきたのです。まだクラスの4分の1の学生は、よくわからないままですが、この調子で行けば、100%も夢ではないのではないかと思っています。

学生たちは今、少しずつ物理学の概念(がいねん)が見えてきたことに、おもしろさを感じているようです。このコラムに彼らのことを書くことにも、喜んで同意してくれました。5月 まで、これからどんな展開が繰(く)り広げられることでしょう。またご報告したいと思います。

マサチューセッツ州立大学ローエル校物理・応用物理学科ホームページ:
http://www.uml.edu/College/arts_sciences/Physics/default.html

土佐 幸子(とさ・さちこ)
米国ロチェスター大学大学院修了。物理学博士。科学を通して「考える喜び」を伝えようと、1995年より米国ボストン科学博物館で子どものための科学教室を教える。日本の科学館、教育機関が実施するワークショップでも講師として活躍。ボストン在住。現在、マサチューセッツ州立大学ローエル校教育学大学院博士課程に在籍し、理科の探究的な指導について研究を進める一方、非常勤講師として、学部学生に物理を教えている。著書に『ライト兄弟はなぜ飛べたのか』(さ・え・ら書房)、訳書に『クォーク の魔法使い』(ロバート・ギルモア著、培風館)などがある。