HOME > ナビコラム
大雪の後のワシントンで
2010年02月17日 土佐幸子(ライト州立大学助教授)
![]() 大雪の後の連邦議会議事堂 |
米国オハイオ州で物理教育の仕事
に携わる土佐幸子さんに、米国の科学事情や、子どもたちと科学教育をめぐる楽しいお話をつづっていただきます。
アメリカ物理教師学会の年次会に出席するために、首都ワシントンに飛んできました。この1週間、アメリカ中部から東部は、続けて大雪
に見舞われ、ライト州立大学でも1日半、キャンパスが閉鎖になりました。ワシントンでは50 cmを超える積雪
に、首都の機能は麻痺しているというニュースが流れていましたが、「学会は予定通り開催」の連絡におっかなびっくりやってきたのです。
来てみると、飛行場もホテルまでの道もまったく問題なく、予定よりも早い時刻に到着。早速、博物館に赴きました。連邦議会議事堂前の広場は、白一色で埋まってとてもきれいです(写真トップ)。久しぶりの晴天を楽しむかのように、家族連れや観光客のグループでにぎわっています。私がめざすのは航空宇宙
博物館にあるライト兄弟の飛行機の展示です。ライト兄弟が1903年に初飛行に成功したフライヤー号の実物が展示されています。ライト兄弟を飛行成功第一号とみなさないスミソニアン博物館に対抗して、ロンドンの科学博物館に展示されていたといういわくつきの歴史的遺品です。
オーヴィル・ライトを模した人形を乗せたフライヤー号(写真2)の前では、この博物館では珍しく、解説員のおじさんが子どもや大人を前に、ライトフライヤー号の画期的な技術を説明し、さまざまな質問に答えていました。「模型を手に取って見てください。」(写真3)「フラップはなかったんですか。」「なかったんですよ。代わりにライト兄弟は翼をねじるという機構を考え出したんです。」と、パンフレットのようなものを左右にねじって説明しています。
館内はどこも熱 心に見学する人たちでいっぱいでした(写真4)。いろいろな飛行機や宇宙 関係の展示品が所狭しと並ぶ中、「ヘー、おもしろいね」という雰囲気がいたるところに漂っています。12月 に日本で宙博を見学に行ったときに感じた雰囲気と共通しています。でも、似ているようで似ていないのは、もっとゆったりとしたところでしょうか。「せっかく来たんだから、これもあれも見なければ」といったような感じはありません。
日本とアメリカの理科教育の相違を研究し、また自分もその只中にいるので、どこへ行っても「日本とアメリカの教育はどこがどう違うのだろう」といつも考えてしまいます。博物館で感じた「似てそうで似ていない」部分はどこにあるかと少し大きな目 で見てみると、日本がどちらかというと達成された結果や出来上がったものに関心が高いのに比べて、アメリカでは何かをやろうと した大きなアイデアに焦点 が合っているのかもしれないと思い当たりました。航空宇宙 博物館でも、「アポロで月 へ」の展示室は、まさに展示室の名前が大きなアイデアを示していますし、ライト兄弟の展示室は「動力 付き飛行機で空を飛ぼう」という夢に向かって展示が組まれていると考えてよいでしょう。
博物館入り口のロビーには、宇宙
から帰還したアポロ11号の操縦モジュール
の実物が展示されていました(写真5)。大気圏に突入するときに黒焦げになった底面を見て、子どもたちは何を思うでしょう。突入時の高温に対応するために、耐熱
タイルは焦げてはがれるようになっているという説明があります。私たちは技術のすばらしさにまず感心させられます。でももしかしたら、その上にさらに、その技術を成り立たせた大きな夢やアイデアに思いを至らせることが、日本ではもっと強調されてもいいのかもしれません。他方アメリカでは、大きなアイデアに感心するだけでなく、個々の技術をもっと賞賛できるような市民を育てていかなければいけないのかもしれません。大雪
の後の博物館見学は、真っ白なワシントンのイメージと共に、文化を越えて互いに学びあう必要性を新たに感じさせてくれました。
スミソニアン国立航空宇宙
博物館ホームページ:http://www.nasm.si.edu/
ライト兄弟の展示室:http://www.nasm.si.edu/wrightbrothers/
アポロ11号操縦モジュール
:http://www.nasm.si.edu/exhibitions/gal100/apollo11.html
土佐 幸子(とさ・さちこ)
米国ロチェスター大学大学院修了、物理学博士。マサチューセッツ州立大学ローエル校教育学大学院修了、教育学博士。科学を通して「考える喜び」を伝えようと、1995年より米国ボストン科学博物館で子どものための科学教室を教える。日本の科学館、教育機関が実施するワークショップでも講師として活躍。現在、ライト州立大学助教授。理学部物理学科と教育学部教員養成科の兼任で、理科教育の日米比較研究に取り組んでいる。著書に『ライト兄弟はなぜ飛べたのか』(さ・え・ら書房)、訳書に『クォーク
の魔法使い』(ロバート・ギルモア著、培風館)などがある。


