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空軍博物館で感じたこと
2010年03月17日 土佐幸子(ライト州立大学助教授)
![]() 国立アメリカ空軍博物館の全景。かまぼこ型の大きな格納庫が3つ並ぶ(公式サイトより) |
米国オハイオ州で物理教育の仕事 に携わる土佐幸子さんに、米国の科学事情や、子どもたちと科学教育をめぐる楽しいお話をつづっていただきます。
ライト州立大学は、ライト・パターソン空軍基地に隣接しています。基地の中にある「国立アメリカ空軍博物館」はアメリカ空軍の公式博物館で、400以上の航空機やミサイルが3棟の大型格納庫に屋内展示され、いつもたくさんの見学者でにぎわっている施設です。
雨
の降る土曜日の午後、「こんな日に博物館に行く人はいるのかしら?」と出かけてみると、ボーイスカウトの団体や家族連れ、若者のカップルや年配の二人連れなど、大勢の人たちが来ていました(写真2)。無料で広い屋内施設、さらには子どもも大人も大好きな飛行機の展示とあって、雨
の日にはもってこ
いの場所のようでした。
最初の展示品は、もちろんライト兄弟のフライヤー号です(写真3)。展示されているのは複製ですが、「最初の軍用機」という解説に、ちょっと身を引き締めました。ライト兄弟が「空を飛ぼう」という夢を実現して作った飛行機が、速く効果的に敵を攻撃するための手段として利用されることになったのは事実です。ライト兄弟も軍に飛行機を売って、資金 を稼いだのでした。「軍用機」という言葉 を見て、科学・技術の発展の裏に社会的な側面があることを改めて認識しました。スミソニアン博物館では、あまり触れられていなかった事柄です。ここは空軍の博物館。軍の歴史を振り返り、軍の功績をたたえることが大事な役割です。戦争との関連で、航空機の科学的・技術的発達が語られるのは当然のことでした。でも、この割り切れなさは何でしょう。幸い、小さな子どもたちは戦争とは無関係に、大きな飛行機を間近に見て、喜んでいるようでした。
長崎に原爆を投下した実の航空機、B-29ボックスカーが展示されています。B-29といえば、小さい頃に母から寝物語のように聞いた言葉 でした。東京大空襲を経験した母は「B-29がゴォーッと飛んできてね・・・」とよく話してくれました。ボックスカーは4.6トンの原爆を運ぶために、不要な設備を取り除いたB-29 の改良型です。その前では、原爆投下にいたったいきさつをビデオで解説していて、たくさんの人が入れ替わり座って聞いていました(写真4)。ビデオは「原爆投下は、第二次世界大戦を終結させたのです」の言葉 で終わり、原爆で広島や長崎がどのような状況になったかについては、一切見せていませんでした。
隣には日本の紫電改が並んで展示され(写真5)、「ゼロ戦よりも有能な戦闘機」で、旋回時に水銀 を使って自動的にフラップを延ばす装置(自動空戦フラップ)を備えていたと解説しています。その奥では、ビデオの解説がいかに「カミカゼ」が無謀だったかを伝えていました。たぶん、事実に反することは伝えていないのでしょう。しかし、あまりにも一方的で自分たちに都合のよい解釈のように思われました。空軍博物館だから仕方ないのでしょうか。ビデオを観た人たちはどのような思いを持ち続けるのでしょうか。
やりきれない思いでギャラリーを出て、空軍関係者の殿堂に足を踏み入れると、明るい展示室内に、子どもたちが体験できる装置が並んでいました(写真6)。飛行機を釣っているひもの張りを調節して、うまく航空母艦に着地させる装置や、コンピュータ
で飛行機を上下左右、うまく転回させるゲームなど子どもたちは熱
心に取り組んでいました。出てくるのは戦闘機ですが、戦争とは無関係に、遊びを楽しんでいるようでした。
空軍博物館では、たまたま、日本-カミカゼ-原爆というストーリーに出会い、自分が日本側の実情を知っているが故に、憤りに近い思いを抱きました。戦争の理不尽さは現在進行形なのだと思います。デイトンに移って以来、「空軍基地のある町」に住むことの意味を考えています。答えらしきものは何も見つからずにいます。問題の大きさを考えれば、その答えはずっと見つからないかもしれません。しかし、大事なことは、科学・技術発展の裏にあるいろいろな側面を念頭におき、物事を単一的な見方で評価しないことではないか思います。「自分が日本側の実情を知っているが故に」と上に書きました。複数の視点から物事を捉えるには、視野を広げて情報を集めることがまず必要です。多角的な視点をもつことによって、自分に都合のよい解釈に安住することを避けることができるかもしれません。まだ一方的な考えに染まっていない子どもたちに、ぜひとも多角的な視点の重要性を伝えたいものだと思いました。
国立アメリカ空軍博物館ホームページ:http://www.nationalmuseum.af.mil/
紫電改の記述:http://www.nationalmuseum.af.mil/factsheets/factsheet.asp?fsID=525
(プロフィール)
土佐 幸子(とさ・さちこ)
米国ロチェスター大学大学院修了、物理学博士。マサチューセッツ州立大学ローエル校教育学大学院修了、教育学博士。科学を通して「考える喜び」を伝えようと、1995年より米国ボストン科学博物館で子どものための科学教室を教える。日本の科学館、教育機関が実施するワークショップでも講師として活躍。現在、ライト州立大学助教授。理学部物理学科と教育学部教員養成科の兼任で、理科教育の日米比較研究に取り組んでいる。著書に『ライト兄弟はなぜ飛べたのか』(さ・え・ら書房)、訳書に『クォーク
の魔法使い』(ロバート・ギルモア著、培風館)などがある。


