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アメリカで広がる授業研究
2010年05月19日 土佐幸子(ライト州立大学助教授)
![]() 研究授業を通して、先生が子どもたちの考え方を学ぶ |
米国オハイオ州で物理教育の仕事 に携わる土佐幸子さんに、米国の科学事情や、子どもたちと科学教育をめぐる楽しいお話をつづっていただきます。
研究授業といって、たくさんの外部の先生が参観する中で展開される授業に出会ったことはありますか。授業をする先生は、個人あるいはグループで、その授業の目 標を達成するには、どのような教材をどのように提示すればよいかということを事前に何度も検討します。授業は入念に練られた学習指導案に沿って進められ、授業後には参観者と一緒に、子どもたちの学習が期待通りに進んだかどうかを話し合う討議会が開かれるのが普通です。このように計画・実践・討議のサイクルを通し、教師が互いの授業を見合うことで資質を高めていこうという研修形態を「授業研究」と呼びます。一つの学校の中で行われる校内研修から、全国規模の研究授業まで含め、日本では古くから授業研究が行われてきました。
その「授業研究」が、レッスンスタディと呼ばれ、近年アメリカの教育界で「画期的な教員研修制度」として注目 を集めています。もともと他の先生の授業を見るという習慣のなかったアメリカの先生たちにとって、教室の後ろから子どもたちがどのように学習を進めているかを観察することは、とても新鮮だったようです。『ティーチング・ギャップ』(ジェームズ・W・スティグラー、ジェームズ・ヒーバート著、湊三郎邦訳『日本の算数・数学教育に学べ―米国が注目 するjugyou kenkyuu』(教育出版))という本が、1999年に日本の子どもたちの国際的に高い数学の力 の背景には授業研究がある、と指摘して以来、全米のあちらこちらにレッスンスタディのグループができ、先生たちの自主的な研修形態として機能を発揮するようになりました(写真2)。
私の勤務するライト州立大学でも、同僚のファレル教授が、地元の小学校教師を対象に、レッスンスタディを取り入れた算数の教員研修を2年前に始めました。私も研究プロジェクトに参加し、州の研究費を得て、レッスンスタディのサイクルを少しずつ始めたところです。トップの写真は、ある小学校3年生の教室で、位取りについて研究授業が行われたときの様子です。264個のキューブを効率よく数えるために、子どもたちは10個ずつのまとまりを作るということを自分たちで考えました。そこまではどのグループもスムーズに進んだのですが、肝心の位取りの話になったとき、264と書いた右から2番目
の数字は10のかたまりがいくつあるかを表し、3番目
の数字は100のかたまりを表すというところが、よく理解できていない子どもが見受けられました。
授業研究の最大の強みは、生の授業を通して子どもたちの学習のつまずきをじっくり観察するところにあります。教師が知恵を集めて考えた指導法が、子どもたちに試され、目
の前でその効果が確かめられるのです。うまく働かなければ、働くようにする知恵をまた絞ります。そこに先生たち自身の学びと深まりがあり、子どもたちの学習を助けるためにもっとよい工夫はないだろうかとさらに指導法を研究していく意欲につながっていきます。
アメリカの授業研究の一つの拠点であるシカゴのディポール大学で、「シカゴ・レッスンスタディ・グループ」が主催する学会が4月 の末に開かれ、私も参加してきました。大勢の学会参加者の前で、小学校2年の引き算の研究授業が行われました(写真3)。「37-18」の計算をいかに行うかという問題です。自分の考えをどんどん出してくる子どもがいる一方で、何をやったらよいかわからず、鉛 筆が止まったままの子どもや、誤った式を書く子どももいました。その後の討議では、こういう教え方をした方がよかったのではないか、いやああいうやり方のほうがよい、という意見がたくさん出て、活発な議論が交わされました。
まったく異なる文化の中で、アメリカの先生たちが、日本の研修形態に見習おうとしているとは、何と興味深いことでしょう。私はレッスンスタディの広まりの中に、アメリカの先生たちが日本になかったものを作り上げていくような新しい動きを感じます。それは、レッスンスタディが、日本とは異なる環境の中で展開しつつある教師の自主的な活動だからです。先生たちは意義を感じなかったら時間と労力
を使って参加しようとはしないでしょう。子どもたちのつまずきを、いかに次の学びに生かすか。日本に逆輸入されるものも出てくるかもしれません。日本とアメリカの触れ合う中に、どんな新しいものが生み出されていくでしょうか。とても楽しみです。
シカゴ・レッスンスタディ・グループのホームページ:
http://www.lessonstudygroup.net/
(プロフィール)
土佐 幸子(とさ・さちこ)
米国ロチェスター大学大学院修了、物理学博士。マサチューセッツ州立大学ローエル校教育学大学院修了、教育学博士。科学を通して「考える喜び」を伝えようと、1995年より米国ボストン科学博物館で子どものための科学教室を教える。日本の科学館、教育機関が実施するワークショップでも講師として活躍。現在、ライト州立大学助教授。理学部物理学科と教育学部教員養成科の兼任で、理科教育の日米比較研究に取り組んでいる。著書に『ライト兄弟はなぜ飛べたのか』(さ・え・ら書房)、訳書に『クォーク
の魔法使い』(ロバート・ギルモア著、培風館)などがある。


