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コラム

アメリカの先生の夏休み研修で

2010年06月16日    土佐幸子(ライト州立大学助教授)


教員研修では、先生が子どもの作業をまず体験。画用紙で作った橋の耐久度を試験する

米国オハイオ州で物理教育の仕事 に携わる土佐幸子さんに、米国の科学事情や、子どもたちと科学教育をめぐる楽しいお話をつづっていただきます。

私の住むオハイオ州デイトン市の小中高等学校では、秋から続いた学年が終わって、2ヵ月 半の夏休みに入りました。今週は、先生たちの研修期間です。ダウンタウンの大会議場や地区の学校を使って、さまざまの教科の研修会が、市の教育委員会主催で開かれました。

ライト州立大学の教員として私が担当したのは、幼稚園から3年生までの先生を対象に、理科と技術を融合 したカリキュラムを紹介するワークショップでした。「小学校からエンジニアリン グ(Engineering is Elementary[EiE])」というボストン科学博物館が開発したカリキュラムの中の「橋を作ろう」という単元について、3時間半のセッションを教えました。このカリキュラムの一つの特徴は、物語を読むことから学習が始まるところです。しかも、物語の主人公には、単元によっていろいろな背景を持った子どもが登場します。蛇足ながら、リニアモーターカー を扱う単元では、日本の子どもも登場します。EiEのホームページを見てください。「橋を作ろう」の単元は、ザビエルという少年が、裏庭に流れる小川にかける橋をデザインする、という想定で話が始まります。子どもたちはお話を読んで、いろいろな形の橋の強さと構造を学びながら、ザビエルと同じように自分たちで橋をデザインしてみようというわけです。


写真2:筒を並べた橋は乗せ得る限りのおもりに耐えた *クリックすると大きくなります。さらにマウスをおしながら自由に動かせます。

夏休みとあって、参加した先生たちもリラックスしている様子です。ワークショップでは、子どもと同じように作業を経験してみることが第一です。4枚の情報カードを使って、なるべくたくさんのおもりに耐える橋を作る作業では、2人ずつがペアになって自分たちの考えを試していきます。2-3年の先生たちは、折りたたんだジグザグの三角形をどのように発展させようかと考えていました。「三角形の他に強い形はありませんか?」とヒントを与えたところ、丸い筒を並べるデザインを考え出しました。金属 ナットのおもりを乗せていくと、カップを2段重ねにして、さらにその上に乗せられる限りのおもりをのせてもまだ壊れません(写真2)。


写真3:「経費節約を考慮せず」と取り組んだグループの橋は人が乗っても壊れず *クリックすると大きくなります。さらにマウスをおしながら自由に動かせます。

こうなるとがぜん興味がわいてきます。次の作業ではいろいろな材料が使えます。ただし、アイスクリームの木の棒は一番高価で1本1ドル、紙やストローは半額の50セントです。「私たちは安くて強い橋を作るわ」と、幼稚園の先生のペアは紙のみを用い、筒が強いとわかったのだからと、筒を並べた上にふちのある紙を乗せて試しました(写真トップ)。1年の先生のペアは、「私たちは経費に頓着せずに、とにかく強い橋を作るのよ」と高価なアイスクリームの棒を8本使って橋を作りました。おもりを乗せてもびくともしません。「私が乗ったって大丈夫よ」と、実際に足を乗せて強度を試しました(写真3)。

先生たちの作業を見ていて驚くのは、自分の考えをボンボンと出してくることです。日本の先生たちは、遠慮なのか、考えが出にくいのか、躊躇することが多いと思います。やはりそこは、文化・社会の違いでしょう。日本ではどちらかというと「言われたとおりのやり方で、言われたとおりにこなす」ことを教えます。「言われたとおりにこなす」ばかりでは、変化のペースの早い現代にあって、追いついていけないことも出てくるでしょう。自分の考えを出していくことは大事なことです。私たちがアメリカ流の学習方法に学ぶところは大きいと思います。しかし、最近思うのは「言われたとおりにこなす」ことも「自分の考えを出す」ことと同じように大事なのではないかということです。


写真4:ある先生が示した割り算の方法 *クリックすると大きくなります。さらにマウスをおしながら自由に動かせます。

小学校算数の教員研修を手伝ったときのことです。割り算についてのディスカッションで「2705÷36」が例にあがりました。みなさんはどのような方法で答えを出すでしょう。筆算で2705÷36を紙に書き、まず270の中に最大いくつの36が入るだろうと 考えていきますか。そもそも、この計算は何を意味するのでしょう。そうですね、2705個のものを36のグループに分けるということを意味します。ある先生が自分のやり方として、写真のような方法を紹介しました。まず36を50個集めた1800を引き、次に残りの905から36を20個集めた720を引き…という具合に36のかたまりがいくつまで入るかを徐々に調べていくという方法です。筆算に慣れた私たちには「こんな考え方もあるのか!」と新鮮です。しかし、続けて考えていくのが苦手な子どもには、理解することが難しいかもしれません。「2705÷36」が何を意味するかをわかっていさえすれば、アルゴリズムにしたがって短時間で答えを導けたほうが誤りが少ないかもしれません。「言われたとおりにこなす」ことができ、しかも「自分の考えを持つ」ことができる子ども。欲張りながら、私は両方の能力 を持つ子どもの育成へのヒントを、日米教育比較の中に見つけたいものだと思っています。


「小学校からエンジニアリン グ(Engineering is Elementary)」のホームページ:
http://www.mos.org/eie/index.php


(プロフィール)
土佐 幸子(とさ・さちこ)
米国ロチェスター大学大学院修了、物理学博士。マサチューセッツ州立大学ローエル校教育学大学院修了、教育学博士。科学を通して「考える喜び」を伝えようと、1995年より米国ボストン科学博物館で子どものための科学教室を教える。日本の科学館、教育機関が実施するワークショップでも講師として活躍。現在、ライト州立大学助教授。理学部物理学科と教育学部教員養成科の兼任で、理科教育の日米比較研究に取り組んでいる。著書に『ライト兄弟はなぜ飛べたのか』(さ・え・ら書房)、訳書に『クォーク の魔法使い』(ロバート・ギルモア著、培風館)などがある。