“透明マント”は実現目前!? 透明技術のヒミツに迫る! 後編
2007年02月13日 島田健弘
漫画やアニメ、映画など、さまざまな作品に登場する透明人間。もし透明人間になったらどうしよう? 誰にも気づかれずに「ムフフ」なことをしたり、試験前の学校に忍び込んで試験問題をチェックしたり……。ワルい想像 ばかりする人もいるでしょう。では、そんな透明マントが実際に誕生するかもしれない、と言われたらあなたはどうしますか? 実はそんな研究が行われていたのです!!
| 独立行政法人理化学研究所 |
決まっている光の屈折率
前回に光の屈折 率という話が出てきました。
光の屈折 率というものは、決まりがあります。
たとえば、真空を1.0とすると、空気 は1.003、水 は1.333。固形物では、ガラスは1.5、炭素 は2.0、鉄 は2.36、ダイヤモンドは2.417……と決まっているのです。これは自然界の決まりごとで、覆せません。
グラスを通して見た先が歪んでいたり、水 の入ったコップにさした鉛 筆が折れ曲がって見えるのもそれぞれの物質の屈折率が違うからなのです。
「光は屈折率の違う物質の境界面を通る時、それぞれの屈折率に従って曲がってしまいます。それで歪んで見えてしまうのです」
理化学研究所・河田ナノフォトニクスの田中拓男先生はそう説明します。
メガネもレンズ特有の屈折率から厚さや曲線の角度を算出して作っているのです。だから視力 にあった度数のメガネが作れるというわけです。

| 光は電界と磁界の波が一緒に進んでいる電磁場 |
世の中に存在しない物質!?
でも、自然界の決まりごとなのに、完全な透明ってできるのでしょうか。
「それを実現させるためには、電磁波
の性質を知る必要があります。電磁波
は電気の波
と磁気の波
のふたつに分かれます。実は屈折率とは電気の波
に対するモノの反応
(誘電率)と磁力
の波
に対するモノの反応
(透磁率)とで、算出できます。そして自然界の物質の透磁率はすべて一律。だから、物質の屈折率も固定されてしまうのです。ということは、透磁率を変化させる物質ができれば、世の中に存在しない物質を作ったことになりませんか? これが透明マントを作る“ヒント”になるんです」(田中博士)

| 田中先生が理研で思索中のメタマテリアルの構造図。100ナノメートル(1000万分の1ミリ)の中に4つのコイルが埋め込まれています。 |
"透明マント"の素材は光学の常識を覆す新素材
透磁率を変化させる新素材 がナノマテリアルというもの。ナノとは前述の通り、ナノメートル のことで1億分の1メートルのこと。高性能の電子顕微鏡 でようやく 見えるかどうかという小ささです。
実は「透明マント」の研究発表をした英米の研究チームはナノマテリアルの研究者でした。そして田中先生もナノマテリアル研究の日本代表選手。
ということは……、なんと“見えなくする”新素材 の研究は、日本でも行われていたのでした。
「”見えない”ということは、言い換えると”物質間の境界面がない”ということ。英米の”透明マント”の発表をした研究者たちも私たちも同じ研究をしている仲間なんです」
でも、境界面をなくすって……?
どうしたらモノとモノの境界面がなくなる、なんてこ
とができるのでしょうか。

| 本当に透明マントはできるのだろうか? |
日本でも研究が!
田中先生は、それはもっとも、とうなづいてこ う続けます。
「もちろん本当に境界をなくすことはできません。だから、電磁波
の透磁率を変えるという考え方になるわけです。具体的には、数十ナノメートル
というコイル
のような円形の金属
盤を同じ向きに大量に埋め込んで、物質の透磁率を人工的に操作してしまおう、という技術です」
ただし、ここからが「サイエンス」の発表と田中先生の研究の違うところ。
「『サイエンス』の発表は、光を曲げて物体を迂回させて背景を投影するという技術と、物質の屈折率を同じにして境界面を消す技術を足したものです。けれど、それだと屈折率の異なる空気
と水
の間で透明マントを羽織ってしまうと、成立しません。屈折率を空気
にあわせたら水
との境界面がなくならないし、水
にあわせたら空気
との境界面がなくなりませんから。一方、私たちは異なる屈折率のまま、境界面を消そうとしているので、下半身が水
に浸かっても透明でいられます」
英米の研究よりも、さらに先を行っているということなのだ。
とはいえ、その分、技術的にはこちらのほうが難しいので、「実験の成功にはまだ時間がかかりそう」だのこと。うーむ。なかなか難しいものだ……。
自然界に存在しない物質の誕生から
前述のように、物質の光の屈折 率は決まっている。
それがあらゆる研究の前提だったこれまでの光学分野。その大前提である屈折率を人類が操作できるということに成功したら……。
その時こそ、本当の透明マントが生まれるときのようです。
「そう。光学の常識が変わるでしょうね
。この新素材
が生まれたら、光学の前提をゼロから書き換えないといけないかもしれない。それに、もともと自然界に存在しないモノを人間が作り出すのですから、どんな用途に使えるかも未知数。私自身、正直、想像
できません。透明マントはそれが実現したときには、あくまでもアイデアのひとつでしょうね
」





