勘と経験が頼りだった畜産界でゲノム研究
2005年10月01日 岩崎大輔
畜産の分野では積極的な研究が始まっているクローン技術。遺伝子 診断や優れた育種牛の選抜も進められています。岐阜県畜産研究所では、「飛騨牛」の品種改良 に向けて新たな研究が行われています。
「勘と経験」が頼りだった
これまで勘と経験が頼りだった家畜の品種改良
は、コンピュータ
の進展により、科学的データでの管理体制が可能となりました。日本固有の肉用牛である黒毛和牛の「飛騨牛」もその例に漏れず、遺伝
的な能力
の高い雄牛や母牛を作ることや、遺伝
的な病気の解明へとチャレンジしています。
コンピュータ
解析により、統計学的に遺伝
能力
を推定することも可能となりましたが、評価の指標となる霜
降りの度合いや、発育の具合がわかる「肥育成績」は、牛を屠殺し、専門の格付け員が肉眼で見ることによって初めて分かるものです。しかし、それでは多大な時間とコストがかかり、昨今の多様化する品種に速やかに対応ができません。
岐阜県畜産研究所では、ヒトの世界で急激に発達したゲノム
研究を畜産の分野にも取り入れることで、その対策に取り組んでいます。牛の遺伝子
情報の解析や、受精卵
移植
などの技術開発は、生まれながらに優れた肉質を持つ黒毛和牛生産への大きな足がかりとなったのです。
遺伝子診断の必要性
岐阜県畜産研究所では、社団法人畜産技術協会附属動物遺伝
研究所と連携し、以下の2つの研究を行っています。
・ 遺伝
性疾患の排除=遺伝子
診断(細胞
や血液
を採取し、病気の原因となる遺伝子
を事前に診断する方法)による遺伝
性疾患の保因を判定すること。
・ 優れた肉質能力
の探索=霜
降り、発育具合などの肉質が良い物、病気への抵抗
力
が強い優良牛の選抜をゲノム
情報から行うこと。
これらの研究が進むことで、優れた肉質を持つ牛、病気に強い牛のゲノム
が特定されるはずです。優れた肉質と関連するゲノム
情報はどれなのか、病気に負けない遺伝子
はどれなのか、牛のゲノム
情報を探索することで病気に強く、優れた肉質を持つ「エリート牛」の選抜や育成が可能となります。
また病気の元となるような不良遺伝子
を保有していても、外見上は健康な牛と見分けがつきません。遺伝子
診断によって不良遺伝子
を検出する方法を確立することが急務となります。
CL-16原因遺伝子の排除
岐阜県では、平成3年頃からある種の牛から生まれた子牛に遺伝
病が見受けられるようになりました。その子牛の親牛は、脂肪
交雑(霜
降り)の遺伝
能力
に長けた重要な種牛でした。そこで、遺伝
病の発生
を防ぐために、遺伝
病を保因する牛を識別する診断方法の確立が急務となりました。岐阜県畜産研究所、動物遺伝
研究所、家畜保険衛生所、臨床獣医師などと連携を図りながら、その解析を行いました。その結果、先の遺伝
病の牛には「Claudin-16(クローディン16=CL-16)」というタンパク質
が牛の体内で作られないことや、3万7000個のDNA
が見当たらないことなどが解明したのです。
さらにCL-16の欠損した牛と健常な牛とを比較したところ、肉質に差がないことも判明しました。このことから、CL-16欠損症の発症を防止するために、牛からCL-16原因遺伝子
を排除しても、肉質の遺伝
的低下が生じないことも明らかになりました。この遺伝子
診断によって、全国の黒毛和牛の遺伝子
保有状況が判明し、CL-16欠損症を未然に防ぐことに大きく貢献しています。
<引用元>
『Science and Technology Journal』2005年10月
号40~41ページ
「地域発、話題の研究自慢の成果 黒毛和牛の遺伝
性疾患の解明に成功」
<原著者>
岐阜県畜産研究所飛騨牛研究部





