科学ドキュメント

グラファイトナノチューブ:期待が膨らむ新素材

2004年06月30日    吉戸智明


1991年にカーボンナノチューブ が発見されて10年以上経ちます。これまで、さまざまな改良がされてきましたが、科学技術振興機構の創造科学技術推進事業・相田ナノ空間プロジェクトの研究チームが、2004年6月 、さらに進化 した機能を持つグラファイトナノチューブを開発しました。


こんなにすごいグラファイトナノチューブ

カーボンナノチューブ をもっと高性能にしたい。しかも簡単につくりたい。そういったコンセプトで開発されたのが、グラファイトナノチューブです。

カーボンナノチューブ は、しなやかで軽く、丈夫、しかも電気を通しやすいため、コンピュータ や航空機などを高性能にし、エネルギー 問題まで解決する、夢の素材と言われています。グラファイトナノチューブは、カーボンナノチューブ の利点を持ったまま、酵素 の機能をつけ加えたり、遺伝子 を取り込むことができたりといった、より幅広い可能性を持っているのです。

また、カーボンナノチューブ をつくるには、炭素 原料を必要に応じて触媒の下でレーザー照射などによって、1000℃程度に加熱 してつくらなければなりませんでしたが、グラファイトナノチューブの場合、もとになる「ヘキサベンゾコロネン」と呼ばれるシート状の分子 をある溶液 に溶かし、ちょっとした「化学的な細工」をしておくと、勝手に集まってテープ状になり、それが自然に巻かれてチューブができてしまうという優れものなのです。


どのような構造なのだろう

カーボンナノチューブ は、炭素 を頂点とする六角形を隙間なくしきつめてできる「グラフェン」と呼ばれるシートが巻上がった、直径1ナノメートル の筒です。

一方、グラファイトはグラフェンシートが無数に積み重なってできた炭素 の固まりで、「ヘキサベンゾコロネン」はこのグラフェンシートの最小単位です。

つまり、グラファイトナノチューブは、この「グラフェンシートが積み重なったもの」が筒状になったもので、長さ0.05ミリメートル、壁厚3ナノメートル 、外径20ナノメートル です。長さはカーボンナノチューブ とほぼ同じ、外径はその10倍に相当します。


グラファイトナノチューブの特長

グラファイトナノチューブには、 にとけにくいカーボンナノチューブ とちがって になじむ性質(親水 性)があります。また、カーボンナノチューブ より大きな穴があります。そのため、直径が原子 100個のかなり大きなもの、例えば酵素タンパク質 などのように、水 中にあるような物質をこの穴に入れることができ、バイオテクノロジー の分野への応用にも可能性が広がります。

また、グラファイトナノチューブは、コンピュータ を今より高性能にできる可能性を持っています。コンピュータ の要はシリコン チップですが、グラファイトナノチューブは、ある化学的処理(酸化 反応 )を施すとシリコン チップより小さくても、より効率的に電気を通すのです。そのおかげで、より低い電力 で、しかも高速にコンピュータ を動かすことができるようになるかもしれません。しかも、カーボンナノチューブ より簡単につくることができるということになれば、今後のコンピュータ 開発に大きな貢献ができるでしょう。

今後の展望

最初にグラファイトナノチューブをつくるとき、ヘキサベンゾコロネンに「化学的な細工」をするということをお話しましたが、この細工によっては、もっと電気を通しやすいナノチューブ、磁石 のような性質を持つナノチューブ、酵素 の機能を持ったナノチューブなど、希望の性質や機能を持つグラファイトナノチューブをつくることも可能になるでしょう。

新素材 グラファイトナノチューブ。しかし、今はまだ、こういった素材ができたというだけで、何に使えるか、どんな長所を持っているのかはほとんど分かっていません。この、たくさんの可能性を秘めたグラファイトナノチューブを上手に活用できるかは、これからの研究にかかっているのです。