惑星の力を借りて遠い天体を目指す技術「スウィングバイ」とは?
2005年08月01日 庄司里紗
惑星 探査 機を遠くの天体 まで飛ばすには、強力 なロケットエンジンが必要です。ところが、加速が小さいロケットでも遠くに行ける方法があります。それが省エネ航法と呼ばれる「スウィングバイ」という技術なのです。

スウィングバイってどんな技術?
スウィングバイとは、簡単に言えば「他の天体
のすぐそばを通過することで、スピードと飛ぶ方向を変える航法」です。
スウィングバイのすばらしい効果は、1977年に打ち上げられた探査
機「ボイジャー」によって劇的に世界の人々に証明されました。
ボイジャーは当初、木星
までしか辿り着けない設計になっていました。ところが、木星
のすぐそばを通過し、その重力
を利用した木星
スウィングバイを行うことで、土星
まで到達するエネルギー
とタイミングを得たのです。
ボイジャー2号機は、さらに遠くの天体
を目
指しました。土星
に接近して観測を行うと同時に、再び巧妙に土星
スウィングバイを行って天王星
へ、同様にスウィングバイを繰り返して海王星
に接近、そして最終的には太陽系
脱出のスピードを獲得したのです。
ボイジャーはいまだに稼働していて、数年後には太陽
の影響から解放される銀河系
空間に飛び出すといわれています。20世紀最後の無人ミッションは、25年以上の時を経てなお、生き続けているのです。
それにしても、一体どうして他の天体
のそばを通り過ぎただけで、そんなことが可能になるのでしょうか?

星の重力を借りてスピードアップ
上の図を見て下さい。速度ベクトル
Vaで木星
の影響圏に進入してきた探査
機は、木星
の重力
を受け、双曲線の軌道を描いて運動します。探査
機は、木星
に最接近する点Cで最高速度に達し、しだいにスピードを緩めながら速度ベクトル
Veで脱出します。
このとき、双曲線上で線対称となるVaとVeの大きさは等しくなります。おっと、これでは何かおかしいですね。探査
機の方向はたしかに変化していますが、影響圏を脱出する速度が同じでは、スウィングバイの意味がなくなってしまいます。
もちろん、これには秘密があるのです。
探査
機が何に対して運動しているか、に注目
してみて下さい。木星
の影響圏の中では、探査
機は「木星
に対する相対運動」をしています。一方、影響圏の外部では「太陽
に対する相対運動」をしているのです。
2枚めの図を見てみましょう。ここでは平行四辺形を使います。太陽
から見た探査
機の進入速度は、図のVaに木星
の太陽
に対する速度Vjを加えたVAになります。同様に、脱出速度はVeにVjを加えてできたVEになるのです。
VAとVEの大きさを比べてみると一目
瞭然。探査
機がかなりスピードアップしたことがわかるでしょう。

惑星探査になくてはならない技術
現在では、地球から打ち上げられる探査
機のほとんどが、何らかの天体
のスウィングバイを利用しています。なぜなら、天体
のエネルギー
を利用することでロケットや燃料の重さ
が節約でき、その分を大切な観測機器などに充てることができるからです。
日本の探査
機でもスウィングバイは実施されています。
1998年に打ち上げられた火星探査
機「のぞみ」は、月
の重力
と地球の重力
を巧みに使って火星
行きの軌道に乗りました。
2003年に打ち上げた小惑星探査機
「はやぶさ」のケースは、少々変わっています。加速の小さいイオン
エンジンという推進装置で小惑星
を目
指す「はやぶさ」は、いったん地球を脱出し、1年あまり太陽
を周回する軌道を飛びながら十分に加速しました。そして2004年5月
、小惑星
イトカワへ向かう楕円軌道に入るため再び地球に接近、地球スウィングバイを行ったのです。イオン
エンジンと地球スウィングバイの組合せは、世界初の快挙となりました。
このように、惑星
探査
の陰にはスウィングバイの技術が存分に活かされているのです。
<引用元>
『Science & Technology Journal』2005年8月
号66~69ページ
「宇宙
へのいざない 第8回 省エネ航法『スウィングバイ』」
<原著者>
独立行政法人宇宙
航空研究開発機構 執行役
宇宙
科学研究本部対外協力
室長・教授
宇宙
教育センター長
的川泰宣(まとがわ・やすのり)





