科学ドキュメント

“最も遠くにある銀河”を探し続ける「すばる望遠鏡」

2002年09月01日    庄司里紗


膨張を続けるわたしたちの宇宙 。その中で遠くにある星や銀河 を探すことは、初期の宇宙 の姿を知るための重要なヒントになります。今回は、そんな星や銀河 の発見に力 を注ぐすばる望遠鏡 の取り組みについて紹介します。

最高水準の画質を支える最新技術

日本の国立天文台が、ハワイのマウナケア山の山頂に建設した光学赤外線望遠鏡 「すばる望遠鏡 」。ここで国内外の天文学者たちによる本格的な観測が始まったのは、2000年12月 のことです。

天体 を観測するには、できるだけ多くの光を集めなければなりません。また、集めた光を一つの焦点 に結び、シャープな天体 画像 を撮影するには、反射 鏡の形を常に理想的な回転双曲面に保つ必要があります。

すばる望遠鏡 は、直径8.2メートルという世界最大級の主鏡で、宇宙 の彼方にある天体 が発する微かな光も逃さずキャッチします。また、コンピュータ 制御で鏡の形を常に調節する能動光学方式を開発、世界最高水 準の画質での観測を実現しました。

現在、世界中で稼働している大型望遠鏡 の数は10台ほど。しかし、広い視野を一度に観測できる主焦点 カメラを備えているのは、すばる望遠鏡 だけです。国立天文台すばる望遠鏡 のホームページを見るとわかるように、すばる望遠鏡 では日々、優れた能力 を持つ7台の観測装置を活用した、さまざまな新しい観測が行われているのです。

遠くを見ること=昔を見ること

宇宙 の歴史をできる限り昔に遡り、星や銀河 の誕生した様子を解明すること。それが現在の天文学の最大の関心事です。

ビッグバン に始まり膨張を続ける宇宙 では、遠くの天体 ほど早い速度で私たちから遠ざかっています。遠ざかる天体 から発せられた光は、ドップラー効果 によって波 長が長くなり、赤っぽく見えます。この波 長が長くなる割合を「赤方偏移」といい、この値が大きい天体 ほど遠くにあるといえます。つまり、遠くの星を見るとき、私たちはそれらの天体 の“昔の姿”を見ているのです。

遠くを見ることは昔を見ること。遠い天体 を観測することは、宇宙 の歴史を遡る考古学といえるのです。

20世紀の最後の10年間、ハッブル宇宙望遠鏡 などによる観測が進み、初期の宇宙 の姿がしだいに明らかになってきました。その一方で、新たな謎が増えたことも確かです。
「ビッグバン が起こったのは何億年前なのか?」
「宇宙 の未来は?」
「最初の星や銀河 はいつどのように生まれたのか?」
「生命がいる惑星 を見つけることはできるのか?」
「見えない質量 といわれる物質の正体は?」

21世紀に急速に進歩を遂げるであろう天文学は、人類の宇宙 観を一変させることになるかもしれません。

“最も遠くにある銀河”を探せ!

すばる望遠鏡 でも、画期的なプロジェクトが進行中です。2002年4月 に始まった「すばる深探査 計画」です。この計画では、すばる望遠鏡 のポテンシャルのすべてを結集し、宇宙 の一角を徹底的に奥深くまで観測することで、非常に遠くにある銀河 の発見を目 指しています。それはつまり、宇宙 誕生直後の生まれたての若い銀河 を探すことなのです。

すばる望遠鏡 では、遠くにある若い銀河 だけが発する特徴的な光だけを透過させる特殊なフィルターを開発。集光力 と広い視野を誇る主焦点 カメラを駆使し、宇宙 の奥深くを観測しています。

この特殊フィルターで撮影した場合にのみ光って見える天体 があるならば、それは赤方偏移6.6の天体 といえます。つまり、ビッグバン の約9億年後に誕生したと思われる、これまでのギネスブックを更新する最も遠い天体 であるはずです。

今年の春の観測でも、それらしき銀河 がいくつか発見されています。これらの天体 の詳しい観測や、より遠くにある天体 の観測を積み重ねていけば、銀河 が生まれた頃の宇宙 の姿も見えてくることでしょう。今後のすばる望遠鏡 の成果に注目 です!

<引用元>
『Science & Technology Journal』2002年9月 号22~23ページ
「宇宙 /宇宙 の神秘解き明かす「すばる望遠鏡 」」

<原著者>
国立天文台光学赤外線天文学・観測システム研究系教授
家正則