インクジェットプリンタ(サーマル方式) 「誕生編」
2007年03月05日 大石かおり
みなさんは年賀状を出しましたか? 年賀状のなかには、パソコンで作成しプリン タで打ち出した、きれいなものが目 立つようになりました。家庭用のインクジェットプリン タが普及したおかげです。さてさて、このインクジェットプリン タはどうやって誕生したのでしょうか。

一瞬を見逃さなかった
30年ほど前のある日、キヤノン株式会社の実験室でのできごとでした。
電気回路
の製作に使っていた熱
いハンダごて*が、インクをつめた注射器の針に誤ってうっかり触れてしまったその瞬間……。針先からインクがピュッと飛び出しました。
「同じことが起こったとしても、普通のひとが見たら、『あら、汚しちゃった…』で終わりなんですよね」。キヤノン株式会社インクジェット技術開発センターの中島一浩さんはいいます。
でも、実験室にいた技術者は違いました。インクが飛び出るのを見た瞬間、「これは使える!」とひらめいたのです。そしてこ
こからさらにたくさんの実験を繰り返していきました。こうして世界初のサーマル方式(バブルジェット方式とも呼ばれます)のインクジェットの原理が発明されました。
「来る日も来る日もインクジェットプリン
タのことを考え続けていた人が見たからこそ、ひらめきが生まれたんです。なにかに夢中になって取り組む人にだけ、日常のちょっとしたことが貴重な発見に化ける瞬間が訪れるのです。このできごとは伝説となり、こうして語り継がれてきました」(中島さん)
*ハンダごて:写真にあるようなハンダを溶かす道具です。ハンダは常温で固体
ですが、ハンダごてで熱
くすると液体
になります。冷めればまた固体
になるので、金属
と金属
を接着するのに使われます。

サーマル(バブルジェット)方式インクジェットのしくみ
インクジェットプリン
タでは、細かいノズルからインクがピュッと紙に飛んで、印刷が進んでいきます(「Canon Technologyインクジェットプリン
タのページ」で印刷のようすをみることができます)。決められた位置に、決められた量のインクが正確に飛んでいかないと、きれいな印刷はできません。
決められた量と簡単にいいますが、一滴の量はわずか1ピコリットル(1ミリリットルの10億分の1)。こんなわずかな量のインクをどうやって飛ばしているのでしょうか。
サーマル方式では、印刷する際に細かいノズルの一部をヒーターで瞬間的に加熱
します。すると、ヒーター近くのごく一部のインクは、瞬間的に300度以上になります。
これは、水
が沸騰
して気体
になる温度をゆうに超えた温度。インクに含まれる水
分の一部は一瞬で液体
から気体
になり、インクの中に気泡(きほう、小さなあわのこと=バブル)ができます。
水
は、液体
から気体
になると体積がぐんと増えて、高い圧力
を発生
します。この圧力
が、インクを小さな穴から粒として押し出し、紙の位置まで高速で飛ばすのです。
いまでは世界中で発売されているプリン
タ方式が生まれる裏にあった、ハンダごてと注射器の偶然のできごと。しかし、ここから最初の製品発売まで、さらに10年以上がかかりました。この間、「もうサーマル(バブルジェット)方式では製品にはならない」と思えるような技術の壁がいくつも立ちはだかったといいます。その壁をどう乗り越えたかは、次回の「開発編」でお伝えします。
取材協力
/写真提供:キヤノン株式会社広報部・インクジェット技術開発センター





