インクジェットプリンタ(サーマル方式) 「開発編」
2007年03月06日 大石かおり
ハンダごてと注射器の偶然の出会いから開発が始まったサーマル方式のインクジェットプリン タ(前回の「誕生編」参照)。実際に製品ができあがるまでには、それまでの非常識を常識に変える、新しい技術の開発が必要でした。

もうだめか……。Kogationが立ちはだかった
数々の難題をどうやって乗り越えてきたのか。「ものづくりには技術屋さんのすばらしい知恵がたくさん詰まっているんですよ」と、キヤノン株式会社インクジェット技術開発センターの中島一浩さんはいいます。
難題のひとつに、「Kogation」という現象がありました。この英単語は辞書を引いても出てきません。これは「コゲーション」と読み、キヤノンの技術屋さんが作り出し、今では国際学会でも通用する立派な専門用語。日本語の「焦(こ)げ」をもじった単語です。英語にはインクの焦げつきをひと言でうまく表せる単語がなかったので、新しく用語を作ってしまいました。
では、このKogationはなぜ起きてしまうのか。
サーマル方式のプリン
タでは、インクを瞬間的に300度以上に熱
します。このとき、インクの中に入っている染料(色をつける物質)が焦げつき、ヒーターの表面にその焦げがたまってしまうのです。
Kogationが起きると、ヒーターの熱
がうまくインクに伝わらず、気泡(バブル)がうまくできなくなります。そしてバブルができなければ、印刷したくてもインクが飛び出せないという悪循環・・・・・・。
サーマル方式を利用するかぎりは避けて通れない「熱
する」というステップですが、「熱
したら焦げる」もまた当たり前のこと。
それまでいくつかの難題を克服してきた開発メンバーも、このトラブルに直面したときには、「もうサーマル方式でプリン
タは作れないのではないか」とあきらめかけたそうです。

適した染料を探せ
しかし、粘り強く研究を続けた結果、「焦げつく」原因は、染料の分子
が熱
でいくつかの断片に壊れてしまい、その断片が水
に溶けないからだとわかりました。「ならば熱
に強い染料を探そう!」と、染料をかたっぱしからフライパンで熱
して実験した開発チーム。しかし、どんな染料も300度以上の高温で壊れないものなどありませんでした。
ところが、染料自体はバラバラになるものの、焦げつかないものが見つかりました。そしてこ
れをよく調べていくうち、「壊れない染料」ではなく、「壊れてもその断片がインクの中で溶けていられるような染料」を探せばよいという発想の転換につながりました。
専門家が染料の化学構造をみれば、「熱
を加えればこういう断片ができるだろう、この断片なら水
に溶けるだろう」という予測がつきます。さらに、焦げつきがおこるきっかけは、材料に含まれる不純物だということもわかりました。
こうして「Kogation」という難題の解決にも成功しました。
非常識を常識に変えるイノベーション(技術革新)。みなさんのなかにも、将来、新しい専門用語を作ったり、イノベーションを起こしたりする人がでてくるかもしれないですね。
取材協力
/写真提供:キヤノン株式会社広報部・インクジェット技術開発センター





