セダカヘビが左右対称でないわけは?
2007年03月05日 橘悠紀(科学ライター)
右手と左手、それぞれが果たす役割には得意不得意があります。特定の目 的のために左右の手が独自に進化 するとどうなるか?「右利きのヘビ」の例を参考にみなさんも想像 してみてはいかがでしょうか。

| イワサキセダカヘビの下あごの骨格。右あごの方が歯の数が多いことがわかる。写真提供:細将貴(京都大学大学院) |
よく使うのは右アゴ?
自分の姿を鏡に写すとわかるように、わたしたち人間を含め、脊椎動物のほとんどは、左右対称の姿をしています。外見だけでなく、内臓の一部を除き、骨格
や筋肉
もほぼ左右対称になっています。例えば、手足は左右にありますし、歯の数も左右で同じです。これは、脊椎動物の大きな特徴です。
ところが、京都大学大学院理学研究科の細将貴さん、同堀道雄さんらの研究で、カタツムリを食べるセダカヘビ類は、左右のあごの長さは同じなのに、下あごの歯の数が左右で違うことがわかりました。
セダカヘビは、日本の八重山諸島(沖縄県)や東南アジアにいるヘビです。八重山諸島にいるイワサキセダカヘビという種類は、右下あごの歯の数が平均25本なのに、左下あごの歯の数が平均18本です。つまり、「右利き」のヘビなのです。

| イワサキセダカヘビとカタツムリ。カタツムリの後ろからしのび寄り、殻に入ろうとするところをあごでおさえつけて食べる。写真提供:細将貴(京都大学大学院) |
自然界の左と右の競争
どうしてこ
のようになったのでしょう。
そのヒントは、セダカヘビ類が食べるカタツムリの殻の巻き方にあります。カタツムリなどの巻き貝の殻は、左巻きに比べ右巻きの方が圧倒的に多いのです。
八重山諸島のイワサキセダカヘビは、えさとなるカタツムリの後ろから近づくと、頭を左にかたむけ、尾の根
元にかみつきます。カタツムリは、食べられまいと、体を殻の中に引っこめようとしますが、ヘビは、殻に近い右下あごに強い力
をかけて逃げこめないようにして、カタツムリの体を食べてしまいます。研究をした細さんは、「このとき、左のあごは殻の奥まで差しこんで引っ張り出す働きを、右のあごは引っ張り出した肉がもどらないように保持する働きをしている」と考えています。このとき歯の数が少ない左のあごは肉に刺しやすく、歯の本数の多い右のあごは肉をしっかりおさえるのに都合がよいと推測されます。それは、イワサキセダカヘビに、左巻きのカタツムリを与える実験をすると、右巻きのカタツムリを食べるよりはるかに手間取ることからもわかります。
また、おもしろいことに、殻のないナメクジを専門に食べる種のセダカヘビでは、下あごの歯の数が左右同じです。
いっぽう、東南アジアには、他の地域に比べ、左巻きのカタツムリが多くいます。これは、ヘビが「右利き」に進化
した結果、今度は左巻きのカタツムリの方が生き延びるのに有利になったためと推測されます。
こうした現象は、生き物が、状況に合わせて都合のよい性質を向上させていくことを示す興味深い例です。





