科学ドキュメント

地球を脱出し、他の惑星へ旅行する夢を実現する方法とは?

2005年06月01日    庄司里紗


太陽系 にはさまざまな惑星 があります。地球を出発してそれらの天体 へ行くには、どのような関門を突破しなければならないのでしょうか? それではまず、手始めに「地球から脱出する方法」について考えてみましょう。

どれぐらいのスピードが必要か?

地球には重力 があります。ロケット(探査 機)で地球を脱出するには、まずこの重力 から脱け出さなければなりません。

このとき、一体どのぐらいのスピードが必要なのでしょうか?

ボールを水 平方向に投げると、ボールは必ず地面に落下します。けれども、投げるスピードをどんどん速くしていくと、ボールの落下する位置もどんどん遠くになります。やがてあるスピードに達すると、ボールは落ちずに地面すれすれの高度で地球の周りを回り始めます。そのスピードは秒速7.9キロメートル(km/s)。秒速およそ72メートル(m/s)の新幹線や、約280メートル(m/s)のジェット機と比べると、いかに速いかわかるでしょう。これは人工衛星 となるために最低限必要なスピードといわれ、「第一宇宙 速度」と呼ばれます。

ただし、人工衛星 が地球を回るのに必要な速度は、高度が高くなるにつれ小さくなっていきます。たとえば、赤道上空の高度約3万6000キロメートル(km)の円軌道(静止軌道)を回る場合は、秒速3km/sで足りるのです。

けれども、これではまだ人工衛星 になっただけ。地球重力 の外へは脱出できないのです。

他の天体の引力が与える影響は?

第一宇宙 速度からスピードをさらに上げていくと、円軌道は細長い「楕円」になっていきます。その軌道が、二度と戻ってこ ない「放物線」に変わるときの速度を「第二宇宙 速度」と呼び、これは秒速11.2km/sにも達します。また、第一宇宙 速度と同様、その速度はロケットの出発した高度によって変化します。

つまり、このとき初めて地球重力 を脱出できるわけです。

でもちょっと待って。本当に「脱出」できるのでしょうか? 宇宙 には「万有引力 の法則」があります。つまり、遠く離れれば地球の引力 は小さくなるけれど、ゼロになることはないはずです。それに、他の天体 による引力 だって考慮しなくてはならないのでは?

いえいえ、大丈夫。惑星 探査 では、探査 機に最も影響を与える力 に注目 して軌道を計算する「円錐曲線接続法」を使うのです。例えば、地球から木星 に行く場合。まず地球の周りに「影響圏」という領域を設け、その内部では太陽 など他の天体 の引力 は無視して軌道を計算します。地球の影響圏を出ると、今度は地球の引力 を無視し、太陽 の引力 だけを考慮して計算します。そして木星 の影響圏に進入したら、木星 の引力 を考えて計算すればいいのです。

影響圏から、いざ惑星間空間へ!

このように「地球の引力 を脱出する」ということは、じつは厳密な現象ではなく、「だいたいこの辺りで脱出したと見なす」という程度の話なのです。

そんなわけで、探査 機はとりあえず地球を脱出し、惑星 間空間へと抜け出したと見なして話を進めましょう。

地球から見ると、この探査 機は秒速11.2キロメートル(km/s)で放物線または双曲線を描きながら遠ざかって行きます。しかし、探査 機のスピードは地球から離れるにしたがって遅くなり、地球の影響圏を脱出する頃にはもうフラフラ、ほとんどスピードは残っていないように見えるのです。

そんな状態で果たして遠い惑星 まで行けるのでしょうか? 大丈夫、これはあくまでも探査 機を地球から見た場合の話だからです。つまり、地球から見てヘトヘトの探査 機でも、太陽 から見ると地球と同じくらいのスピードで飛んでいるのです。太陽 に対して地球は秒速30km/sで動いているのですから、探査 機も太陽 に対しては秒速30km/s強で運動していることになるのです。

<引用元>
『Science & Technology Journal』2005年6月 号66~69ページ
「宇宙 へのいざない 第6回 地球脱出」

<原著者>
独立行政法人 宇宙 航空研究開発機構 執行役
宇宙 科学研究本部対外協力 室長・教授
的川泰宣(まとがわ・やすのり)