国際数学オリンピック金メダリスト 東大生・尾高悠志さん 前編
2006年12月23日 島田健弘
高校生が対象のはずなのに、東京大学の数学入試問題よりはるかに難しい問題が出されるという「国際数学オリン ピック(International Mathematical Olympiad, IMO)」。今回登場する尾高悠志さんは、高校1年生の時に2001年にアメリカの首都ワシントンD.C.で開催された「第42回 国際数学オリン ピック」で金 メダルを獲得した現役の東大生です。日本人では7人目 の金 メダリストで、その後も3年連続で銀 や銅 のメダルを獲得。現在も東大で数学の研究をしています。子どものころから算数が好きで、“将来は数学者”を志し、その夢の通り数学者への道を歩いています。尾高さんはどんな人なのでしょうか。

| 駒場には高校時代から親しい尾高さん |
高校から慣れ親しんだ駒場で
渋谷駅から井の頭線で二駅。駒場東大前駅を降りるとすぐ正面に東大駒場キャンパスの正門が見えます。ここにある同大理学部数理科学研究科棟に尾高さんは通っています。
2004年に入学した尾高さんは筑波
大学附属駒場高校の出身。最寄り駅は同じ駒場東大前駅で、高校時代から慣れ親しんだ土地です。
数学オリン
ピックの金
メダリスト、かつ、日本の最高学府「東京大学」に現役で合格したスーパー理系人間。どんな“怪物”だろうと
想像
しながら、待ち合わせ場所の数理科学研究科棟に行くと、メガネをかけたふつーの青年が佇んでいました。
| 駒場東大駅前の正門 |
高校で学ぶ数学と現代数学は別物
最初に説明しておくと、大学には主に2つに分けて、文系と理系という進路があります。文系は国語、外国語や社会(歴史、政治、経済)などに関連する分野で、理系というのは数学や理科などに関連する分野。
理系には、宇宙
や自然界の成り立ちを研究する理学部や機械や電子
機器などを開発する工学部、人の体や生物の仕組みを研究する医学部といった学部があります。いずれも科学的な観察や実験を日々行うことで、未知の世界を解明していく学問です。
でも、数学を研究するというのは……理系と言っても、いまひとつイメージが沸きません。鉛
筆やボールペンを片手に紙に書き、数式などを考えていくという姿が、あまり”実験”らしくないからでしょうか。
尾高さんが所属する学科(研究部門)の正式名称は“東京大学大学院数理学研究科・理学部数学科”。ここは代数、幾何、解析、応用数理などの「現代数学」を学ぶ場です。この現代数学は、中学や高校までのような数学とは違います。中学や高校までの数学のイメージは、どちらかというと「テストのために公式を覚えて、計算問題を解く」という考えが一般的でしょう。
でも、大学で学ぶ現代数学は計算問題とはまるで別物だと尾高さんは言います。

| 高校1年で習うはずの二次方程式の公式 |
公式のない数学へ
「高校時代に数学が得意だった人が、大学の数学科に来るとショックを受けるんじゃないかな。大学では計算じゃなくて理論体系を学ぶから」
理論? 数学の理論ってどういうものでしょうか
「数学とは、“なぜそのような結果になるのか”という問いを発し続ける学問です。いわゆる『公式』にも、理由をさかのぼればそれが成立した理由がある。2次方程式の解の公式だって、それを考えた人がいて、どういう経緯でその公式を見つけたのかという歴史があるわけです。その次には3次、4次、そして5次と方程式の解の公式を求めていった人たちがいる。そういう過去の数学者たちの思考の旅をなぞっていきながら、自分の頭で再構築していく。それが数学の理論で、そうする人が数学者だと思っています。ちなみに5次方程式は存在しないということは19世紀の大数学者ガロワが証明しました」
でも、東大を志望するとしたら、入試の際、すべての科目
で最高の点数を目
指さないといけない。となると、かりに数学だけで公式を覚えるだけでも大変そうです。
「いや、ぼくだって大学入試のときは、数学以外はヒドイものでした。特にセンター試験は厳しかった。ただし、センターを通過した二次試験では、数学で満点近く採れば、あとの点は多少低くてもなんとかなるんです。だから、ぼくの合格は数学の一点突破に近かったですよ」

| 尾高さんが尊敬する数学者ガロア |
中学で大学院レベルの現代数学をマスター
そんな風に笑う尾高さんですが、そもそも大学ではどんなことをしているんでしょうか。そう尋ねてみると、いきなりずっこけるような答えが返ってきました。
「どんな生活を送っているか? ぼくは参考になりませんよ。なぜなら、いつもウチで自習してばっかりで、大学の授業には出てないんですよ!」
そんなことを言ってしまって大丈夫なのでしょうか……。
というより、なぜ授業に出ないんですか?
「大学で学ぶ現代数学は、中学校の時点で学び終えちゃってるからです」
大学の現代数学を中学で終わっていた、って……(!)。
いったい中学校では、なにをやってたんですか?
「ぼくは中1の時、数学オリン
ピックのOBが講師をやっている塾に通っていて、そこで現代数学のおもしろさや醍醐味を知ったんです。その塾で、中1で高校までの数学(三角関数、ベクトル
、微分、積分、確率・統計など)を、中2で大学の数学(代数、幾何、解析学など)を終わらせた。中3では、大学院の数学(関数解析学、微分方程式など)みたいなことをやっていました」
中学生で大学院レベル
の現代数学……。
それでは、大学で習う現代数学の初歩は物足りないはずです。
「だから、大学の講義はたまにしか顔を出さなくなっちゃったわけです。でも、ウチで自習していても孤独でした。真剣に悩んだこともあります。ずっと数学オタクで、最低限の授業にしか出なかったから、同級生と顔をあわせることも少ないし、かといって、数学の話はレベル
が違うからできない。かなり孤独でした。それを癒してくれたのが数学オリン
ピックで出会った仲間でした。彼らにどれだけ助けられたことか」
数学の醍醐味を知ったのも数学オリン
ピックの先輩。仲間もその出身者。
どうやら、尾高さんの人生には数学オリン
ピックが深く関わっているようです。





