科学ドキュメント

エチゼンクラゲ大量発生のナゾを追え! 後編

2006年12月23日    庄司里紗


ここ数年、日本近海に大量発生 して問題になっているエチゼンクラゲ。定置網に入り込んで魚に害を与えたり、その重みで網を破ったり……。各地の漁師さんたちの被害は深刻です。なぜエチゼンクラゲはこんなに増えてしまったのでしょうか? 今回はその大発生 のナゾに迫ります!


クラゲのサンプル写真

予想以上に広がっている深刻な漁業被害。なんとかしなければ!

 最近では、暖流 に乗って津軽海峡を越えたエチゼンクラゲが、岩手県沖や房総半島沖にまで出没するようになっています。「当然ながら、エチゼンクラゲの被害も各地に広がっています。福井県や島根 県などでは多くの漁師さんたちが休漁に追いやられ、青森県のサケ定置網では被害総額が20億円を超えたという報告もあるんです」 度重なるエチゼンクラゲ被害に悩まされ、漁師を廃業してしまった人もいると言います。エチゼンクラゲの被害は、私たちの予想をはるかに上回る状況になっているのです。安田さんが語気を強めるのも無理はありません。 一体、増え続けるクラゲ被害への対策はどうなっているのでしょうか? 安田さんは、エチゼンクラゲの大発生 は日本だけの問題ではないと言います。「韓国の漁業にも深刻な被害が出ていると聞きます。日本と韓国、そして発生 海域にあたる中国を交えた三国間のシンポジウムも、ようやく 開催され始めました。しかし、具体的な解決策にまでは至っていないのが現状です。私たちのようなクラゲの専門家や研究機関に対する支援も十分ではありません。日本の沿岸漁業が立ち直れないぐらいのダメージを受けてしまう前に、一日でも早く対策を練る必要があるんです」 エチゼンクラゲ被害の深刻さを訴えながらも、「心中は複雑です」という安田さん。クラゲ研究一筋に生きてきた安田さんには、エチゼンクラゲに対する特別な思いもあるようです。「クラゲだけが悪いんじゃないんだよ」とさみしそうにつぶやいた姿が印象的でした。


クラゲ駆除の新兵器「クラゲスイーパー」

急ピッチの被害対策:網を改良してクラゲをシャットアウト!

 もちろん、国もエチゼンクラゲに対してただ手をこまねいているだけではありません。独立行政法人・水 産総合研究センターでは、魚とクラゲを分離することができる定置網や底引き網に改良する技術の研究・開発に力 を注いでいます。 また、同センターでは、漁業被害を少しでも減らすために、来遊するクラゲを洋上で駆除する特殊なトロール網の開発も行われています。その名も“クラゲスイーパー”。幅30m、長さ80mほどの網の最後部に、ステンレスワイヤーを格子状に張った 製のリン グを取り付け、船で曵きながら海中のクラゲを切断するという仕組みです。現在、日本各地でこの装置を使った駆除実験が行われています。 ただ、一部の漁業関係者からは「切断されたクラゲの死骸が海底に沈み、藻場の生育に悪影響を与えないだろうか?」という心配の声も上がっています。しかし、死んだエチゼンクラゲが分解 されるまでにどれくらい時間がかかるのか、生態系 にはどんな影響が及ぼすかなどについては、ほとんどわかっていないのです。 大量発生 の原因もわからず、データに乏しい現状では対症療法的な対策しか取れず、現場には歯がゆさが広がっています。けれども、多くの漁師さんたちは「発生 段階での駆除」を望んでおり、そのためにはやはり国際レベル での取り組みが不可欠だといわざるをえません。 前出の谷口さんは、こうも言っています。「今年のクラゲ出現数は“昨年の10分の1程度”という予報が出ていたけれど、実際には去年とほとんど同じ数のクラゲが網に入っている。せめて正確な予報を出してくれれば、もう少し被害を抑えることもできるんですが……」 それはクラゲ被害に悩むすべての漁師さんたちの願いでもあるのです。


福井県立小浜水産高校

エチゼンクラゲをクッキーに! 有効利用への新たな試み

 そんな中、憎まれ役のエチゼンクラゲを“食材”に加工して、「地元の名産品にしてしまおう」というユニークな研究を試みた高校生たちがいると聞き、さっそく彼らのいる小浜市へと行ってみました。 海沿いに建つ福井県立小浜水 産高校を訪ねてみると、残念ながらクラゲの研究をしていた生徒さんたちは今年の春に卒業してしまったとのこと。代わりに、研究の指導にあたった小坂康之先生が対応してくれました。「地元の水 産業へ貢献したいという気持ちから、数年前よりエチゼンクラゲの食用加工について研究してきました。クラゲは9割以上が水 分なのですが、さまざまな試行錯誤の中で、煮詰めてろ過 したエキスを真空凍結乾燥機で乾燥させると、粉末状に加工できることがわかったんです」


クラゲを煮る小浜水産高校の生徒さん

クラゲを粉末に!

 そう言って、小坂先生は完成した白い粉末を見せてくれました。臭いはありませんが、味は苦みのある強い塩 味がします。「ナトリウムマグネシウム などのミネラル類を含んでいるので、そういう味がするんですよ」


クッキーをもつ小浜水産高校の小坂先生

クラゲ粉末を製品化!

 生徒さんたちは、このクラゲ粉末を使って豆腐やゼリーを作りましたが、製品化には至りませんでした。ところが、今年に入ってから県内のギフト販売会社から申し出があり、この粉末を使ったクッキーの製品化が決まったそうです。「10月 から福井県内の駅売店などで販売を始めました。売り上げは好調で、メーカーからは『在庫が足りなくなりそうだ』などという噂も耳 にしています(笑)。生徒たちの願いだった“地元への貢献”を叶えることができて、とてもうれしく思っています」


やはりどう見ても多すぎるエチゼンクラゲ

まだやつらとの闘いは終わらない……

 もちろん、こういった研究によってすべてのエチゼンクラゲ問題が解決するわけではありません。でも、こういった取り組みがニュースになれば、世間の人々がエチゼンクラゲの問題に目 を向けるきっかけになるかもしれません。 現在は、クラゲに含まれるコラーゲンを利用した化粧品への応用など「さまざまなアイディアを暖めている段階」という小坂先生。そんな小浜水 産高校の研究には、今後も期待したいところです。