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セマフォリン3Aがアトピー性皮膚炎のかゆみをおさえるしくみがわかった
2008年10月06日 橘 悠紀(科学ライター)
アトピー性皮膚 炎(ひふえん)は、近年、日本をはじめ、世界的に患者(かんじゃ)が増えています。多くの人が、かゆみ・いたみ・炎症などに苦しんでいます。今回、セマフォリン 3Aという物質がアトピー性皮膚 炎のかゆみをおさえるしくみが発見されました。アトピー性皮膚 炎の新しい治療(ちりょう)につながると期待されます。(写真1)
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| 写真1:マウスを使った実験のようす。マウスにセマフォリン3Aを注射している。写真提供:横浜市立大学大学院医学研究科 |
完全に治すのが難しいアトピー性皮膚炎
アトピー性皮膚 炎は、顔や首、うでなどにはげしいかゆみ・いたみ・炎症が起こる症状です。ほこりやダニ、特定の食べ物などが体に入ると、必要以上に反応 してしまうために起こる悪い症状(しょうじょう)をアレルギー といいます。アトピー性皮膚 炎もアレルギー の一種です。アトピー性皮膚 炎は、子どものころに現れることも、大人になってから現れることもあります。完全に治すのは難しく、現在は、ステロイドという薬で症状をおさえることが、よく行われています。
かくとますますかゆくなるしくみ
皮膚 の下には、神経線維(しんけいせんい)というものがあり、ここでかゆみを感じます。かゆい時に皮膚 をかくと、皮膚 の表面の細胞 から、神経線維をのばす物質が出ます。神経線維がのびると、ますますかゆくなり、かくと、またかゆくなり…となって、皮膚 が傷つき、治りにくくなってしまいます。このことが患者を苦しめているのです。(図1)
どうしてこの研究に取り組むようになったのか
横浜市立大学医学部の五嶋良郎(ごしまよしお)先生は、長年、神経線維の研究をしていました。そして、セマフォリン 3Aという物質が、神経線維の成長をおさえるはたらきがあることに注目 していました。また、同じ大学の池澤善郎(いけざわぜんろう)先生は、アトピー性皮膚 炎の患者を診察(しんさつ)し、神経線維の成長がアトピー性皮膚 炎のかゆみと関係していることを知っていました。五嶋先生と池澤先生は、セマフォリン 3Aが、神経線維の成長をおさえ、アトピー性皮膚 炎のかゆみをおさえることができるのではないかと考えて、マウスを使った実験を行いました。
アトピー性皮膚炎のマウスにセマフォリン3Aを注射して実験する
実験は、次のように行いました。
1.アトピー性皮膚
炎のマウスを用意する。
2.半分のマウスには、セマフォリン
3Aを注射する。注射は、1日2回、5日間行う。
残りの半分のマウスにはセマフォリン
3Aを注射しない。
3.体をかく回数の調査、皮膚
炎や毛の生え方の観察、顕微鏡
で皮膚
の観察を行う。
| 写真2:セマフォリン3Aを注射したマウス(左)と注射しないマウス(右)の皮膚のようす。注射したマウスは、アトピー性皮膚炎の症状がよくなり、毛が増えている。注射しないマウスは、皮膚炎が増えている。写真引用:文末の注1 *クリックすると大きくなります。 |
実験の結果、セマフォリン3Aがかゆみをおさえるしくみがわかった
体をかく回数:
セマフォリン
3Aを注射したマウス―3日目
から少なくなった。
セマフォリン
3Aを注射しないマウス―変わらないか、増えた。
皮膚
炎や毛の生え方の観察:
セマフォリン
3Aを注射したマウス―皮膚
炎がよくなって毛が増えた。
セマフォリン
3Aを注射しないマウス―皮膚
炎が増え、毛の生え方も悪く毛がさらに減った。(写真2)
| 図2:セマフォリン3Aを注射したマウスと注射しないマウスの、体をかく回数や皮膚のようすなどを総合的に点数で表したグラフ。点数が低いほど良い。セマフォリン3Aを注射したマウスは、点数が下がっている(アトピー性皮膚炎の症状が良くなっている)。 *クリックすると大きくなります。 |
「体をかく回数」・「皮膚
炎や毛の生え方の観察」を総合的に点数にして表したものが、図2です。セマフォリン
3Aによって、アトピー性皮膚
炎の症状がよくなっていることがわかります(図2)。
| 写真3:顕微鏡で見たマウスの皮膚。上はセマフォリン3Aを注射したマウス。下はセマフォリン3Aを注射していないマウス。茶色のところが、皮膚炎の原因になる細胞で、上は減っている。写真引用:文末の注1 *クリックすると大きくなります。 |
顕微鏡
で皮膚
の観察1:
セマフォリン
3Aを注射したマウス―皮膚
炎の原因となる細胞
が減っている。
セマフォリン
3Aを注射しないマウス―皮膚
炎の原因となる細胞
が減っていない。
(写真3)
顕微鏡
での皮膚
の観察2+マウスの観察:
セマフォリン
3Aを注射したマウス―神経線維があまり成長していないので、かゆみがおさまる(図3)。
セマフォリン
3Aを注射しないマウス―神経線維が成長して、ますますかゆくなる(図1と同じようになる)。
実験の結果のまとめ
実験の結果明らかになったのは「セマフォリン
3Aがかゆみをおさえるしくみ」で、図3であらわされたものです。これが今回の新発見です。
今後の研究について
五嶋先生は、「現在のアトピーの治療薬は、症状によっては効果が十分でないものや、副作用が起こるものもあります。セマフォリン 3Aを、アトピー性皮膚 炎の新しい治療薬として役立てるための研究をしていきます」と言います。セマフォリン 3Aが実際に使えるかどうかは、今後副作用などを調べていく必要がありますが、アトピー性皮膚 炎の人にとって、大きな期待がもてます。
五嶋先生から、みなさんへのメッセージ
「今回の発見は、患者のみなさんの苦しみを和らげることにつながるのではないかということで、手応えを感じています。今回の発見には、医学の基礎研究をしている研究者と、実際に患者を見ている研究者の協力
が重要でした。また、こうではないかという考えを実験にうつすことが発見に結びつきました。科学では、情報を取り入れることだけでなく、不思議に思うことを、いろいろな人の協力
を得ながら実際に試してみることが大切です。不思議だと思う気持ちから、さまざまな体験をすることが新しい発見につながるのです。みなさんも、『なぜ?』という気持ちを大切にしながら、自然や周りのものに目
を向けて、いろいろな体験をしてみましょう」(写真4)
注1(写真2,3は次の雑誌から引用):Journal of Investigative Dermatology(2008):Semaphorin3A Alleviates Skin Lesions and Scratching Behavior in NC/Nga Mice, an Atopic Dermatitis Model: Junko Yamaguchi, Fumio Nakamura, Michiko Aihara, Naoya Yamashita, Hiroshi Usui, Tomonobu Hida, Kohtaro Takei, Yoji Nagashima, Zenro Ikezawa and Yoshio Goshima



