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電気をよく通し、ゴムのように伸びる物質を開発 世界初
2008年10月27日 橘 悠紀(科学ライター)
ロボット をさわった時のことを想像 してみましょう。金属 の冷たい感じを思いうかべる人が多いのではないでしょうか。今回、世界で初めて、電気をよく通し、ゴムのように伸びる、まったく新しい物質が開発されました。この物質を使えば、人間のようにやわらかい皮膚 をもつロボット ができる日も、そう遠くないかもしれません(写真1)。
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| 写真1:世界で初めて開発された素材、伸縮性導体(黒い部分)をシリコーンゴム(白い部分)で包んだシート。電気を通すうえに、伸び縮みする。 |
ロボットをやわらかい皮膚(ひふ)でおおいたい
最近は、ロボット の研究や開発が進み、人間型のロボット が、介護(かいご)や家事をするなど、家庭で使われる日が近いと予想されています。人間型のロボット を実用化するために、自分の研究分野が生かせるのではないかと考えたのが、東京大学大学院工学系研究科の染谷隆夫(そめやたかお)先生です。染谷先生は、材料や物質について研究してきました。研究を進めるうちに、ロボット の表面をおおう人工皮膚 が作れないかと考えるようになりました。
人工皮膚は、よく伸び縮みして、電気をよく通す必要がある
ロボット
に使う人工皮膚
は、次の2つの条件を満たす必要があります。このような物質は、これまでありませんでした。
1.よく伸び縮みする:どんな動きにも対応できなければなりません。また、ロボット
が介護などで使われることを考えると、金属
の冷たい感じよりも、やわらかい感触(かんしょく)のロボット
の方がいいですよね。
2.よく電気をよく通す:人間の皮膚
には、温度・痛み・圧力
などを感じるセンサーの機能があります。同じような機能を人工皮膚
にもたせようとすると、人工皮膚
がよく電気を通すようにする必要があります。
カーボンナノチューブとゴムを混ぜられないだろうか?
染谷先生は、研究チームの中心として、よく伸び縮みする素材と、電気をよく通す素材をうまく混ぜ合わせれば、めざしている人工皮膚 が開発できるのではないかと考えました。そこで、先生は、よく伸び縮みする素材としてゴムを、電気をよく通す素材としてカーボンナノチューブ を選びました。カーボンナノチューブ というのは、炭素 が筒の束のようになっている素材で、電気をよく通します。カーボンナノチューブ とゴムを混ぜることができれば、よく伸び縮みして、電気を通す物質が開発できると考えたのです(図1)。
カーボンナノチューブとゴムがうまく混ざらない、イオン液体を使ってはどうか
カーボンナノチューブ とゴムを混ぜようとする時、問題がありました。うまく混ざらないのです。染谷先生は、うまく混ぜるために、イオン 液体 という物質に注目 しました。このイオン 液体 は、カーボンナノチューブ と混ぜると、黒いゲル(ゼリーのようなもの)ができるのです。こうすれば、ゴムとよく混ざるにちがいないと考えたのです(写真2)。
イオン液体で混ぜる時の問題、ゴムとうまく混ざらない
イオン 液体 を使ってカーボンナノチューブ とゴムを混ぜる時にも問題がありました。ゴムとイオン 液体 がうまく混ざらないのです。これに対して染谷先生は、ゴムの種類にもいろいろあるので、イオン 液体 とうまく混ざるゴムもあるのではないかと考えました。染谷先生は、いろいろな種類のゴムをイオン 液体 と混ぜる実験を何度もくり返し、ゴムとイオン 液体 の混ざりやすさを調べました。そして、ついにイオン 液体 と混ざりやすいゴムを発見したのです(図2)。
カーボンナノチューブとゴムを、イオン液体を使って混ぜ、ついに新しい物質を開発
カーボンナノチューブ
とゴムを、イオン
液体
を使って混ぜる手順は次のようになります。
1.イオン
液体
でカーボンナノチューブ
の束をほぐす。
2.1と、ある種類のゴムを混ぜる。
3.できた物質を確認する。
(図3)
この手順を何度もくり返し、ついに、世界で初めて開発に成功したのが、「伸縮性導体 (しんしゅくせいどうたい)」という物質でした(写真3)。「伸縮性」というのは、伸び縮みするということを、「導体 」というのは、電気を通すものということを表しています。今回開発された伸縮性導体 は、約1.4倍に伸ばしても電気をよく通し、抵抗 (電流 を流すまいとする性質、ふつう電気を通す物質には抵抗 がある)が変化しませんでした。電気を通すもので、こんなにも伸ばせるものは、これまでありませんでした。
| 写真4:ロボット用の人工皮膚をはった、人間型ロボットの手の部分。この手にはってあるのは、染谷先生が2003年に開発したもの。このときは、曲がるが、あまり伸びない人工皮膚だった。今回開発した人工皮膚は、これからロボットにはられる。 提供:染谷隆夫 *クリックすると大きくなります。 |
ロボット用の皮膚以外にもさまざまな利用が考えられる
染谷先生は、さらに伸び縮みさせられるように、伸縮性導体 を網目 (あみめ)にして、シリコーンゴムで包みました。以前も、染谷先生は、別の方法で開発した物質で、ロボット 用の人工皮膚 を開発しています(写真4)。でも、今回の開発で、より性能のよい人工皮膚 実現への道が近づきました。染谷先生は、「今回開発した伸縮性導体 は、曲がっている面にはることができるので、ロボット 用の皮膚 以外にもいろいろな分野に使えます。たとえば、自動車のハンドルにはれば、運転している人がハンドルをにぎる力 や脈拍 (みゃくはく)などを検知して、眠(ねむ)そうかどうかがわかるシステムができるかもしれません。どんな所にもはることができるという長所を生かした利用法が、さまざまに考えられることでしょう」と言います。
染谷先生からみなさんへのメッセージ
「できるかどうかわからなかった『イオン 液体 と混ざるゴムの発見』に挑戦したことが、今回の成功に結びつきました。どんなに難(むずか)しいと思われることであっても、以前とちがう発想やちがう見方をすることで、いくらでも新しいこと、おもしろいことに行き着くことができると思います。どんな分野でも、まだまだおもしろいことがありますから、みなさんも理科に興味を持ってください」(写真5)
新しい発想と、ねばり強い努力 が、世界で初めての開発につながったのです。



