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7703mの深海にすむ魚の撮影、日英共同チームが成功
2008年11月17日 橘 悠紀(科学ライター)
数千mもの深海
(しんかい)の世界は、よくわからないことが多く、宇宙
(うちゅう)よりもなぞに満ちた世界だと言われるほどです。そのような深海
の調査(ちょうさ)は、たいへん困難(こんなん)ですが、技術の進歩によって、少しずつ調査が進められるようになりました。今回、これまでで最も深い、水
深7703mの海にくらす魚の様子が初めて撮影(さつえい)されました。
(写真1)
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| 写真1:水深7703mの深海で撮影された17ひきの魚、動きは活発だった。 提供:東京大学海洋研究所 |
8020mのなぞ多き深海、日本海溝
深海
の中で、周りよりさらに深くなっている地形を海溝
(かいこう)といいます。日本の東北地方から関東地方にかけての沖合いには、日本海溝
という深い海溝
があります。日本海溝
は、最も深い所で8020mもあります。このように深い海は、光が届(とど)かず真っ暗なうえ、水圧
(すいあつ)が大きく、食べるものも少ないため、魚などの生き物は少ないのではないかと考えられていました。これまで、大きなあみで魚をつかまえる調査もありましたが、よくて1ぴきしかかかりませんでした。(図1)
難しい深海の調査
深海 には、まだ明らかにされていないなぞが、数多くあります。深海 を調べることはたいへん難(むずか)しいのです。例えば、せん水 船での調査は音が大きく、魚たちがいたとしても逃(に)げてしまい、自然の様子をとらえることはできません。
前回の水深6945mよりも、さらに深い場所の調査をめざす
東京大学海洋研究所とイギリスのアバディーン大学の共同チームは、今までわからなかった深海
の生き物の様子を調べるため、2008年9月
24日~10月
6日に、学術調査船白鳳丸(はくほうまる)という船で日本海溝
の調査を行いました。2007年に同じチームで、日本海溝
の水
深6945mの場所で調査をしましたが、今回は、これよりさらに深い場所をめざしました。水
深7000mより深い場所の調査は前回にも増して、さまざまな困難があります。
深海7000m級をビデオカメラで撮影する方法とは
調査は、ランダーという観測機器(かんそくきき)を使い、次のように行います。
1.ランダーにうきとおもりをつけ、船から海にしずめる。ランダーには、ビデオカメラと、魚などを集めるためのえさ(サバ)がついている。また、魚などが入ると出られなくなるわなもついている。
2.ランダーは、約5時間かかって海底にしずんでいく。
3.ランダーが海底に着いたら、えさに魚などが集まってくる様子をビデオカメラで撮影する(写真2)。
4.撮影が終わるとランダーのおもりを外し、うきが浮(う)く力
でランダーを海面まで浮上(ふじょう)させる。
ランダーには、エンジンなど音の出るものはついていないので、魚が逃げたりしません。今回の調査では、撮影開始から20分ほどすると、調査チームが用意したえさのサバにヨコエビ(エビの仲間)が集まり、その後、魚がやってきました。(図2)
深海7000m級を撮影するため、さまざまな困難を乗りこえた
今回の撮影にはさまざまな困難なことがありましたが、それを乗りこえ、撮影に成功しました。その中から3つ紹介(しょうかい)します。
【困難1】水
深7000m以下となるとランダーやうきにとても大きい水圧
がかかり、こわれてしまうことがある。水
深7000mでは、はがきくらいの面積に115.5トンもの重みがかかっている。→【乗りこえた】カメラを入れるケースやうきなど、水
深1万2000mまでの水圧
にもたえるものをつくった。
【困難2】ランダーをしずめるとき(写真3)、海中のがけに落ち、たおれてしまうことがある。→【乗りこえた】海底の地形を事前にしっかり調べ、しんちょうにしずめた。
【困難3】撮影が終わって浮上する途中(とちゅう)で、どこかに引っかかってしまうと、ランダーを回収できなくなることも考えられる。うまくランダーが浮かび上がっても、広い海で探すのは難しい。浮かんだ位置と船の位置があまりはなれていると、見つけられないおそれもある。→【乗りこえた】潮(しお)の流れなどを考えて浮かぶ道筋、浮かぶ場所などを予測し、船の上から目
で見て探(さが)した。
多くの人の協力で、7703mの深海の撮影に成功
今回の調査では、多くの作業員の協力
で困難を乗りこえられ、無事ランダーをしずめ、また引き上げることに成功しました。今回、共同調査チームの中心になったのは、東京大学海洋研究所の松本亜沙子(まつもとあさこ)先生です。松本先生は、小学生のころに深海
の映画「沈黙(ちんもく)の世界」を見て感動したことをきっかけに、海のことを研究する道に進みました。今回の調査で調査船に乗りこんだときの様子を「特に、ランダーが無事に浮かび上がり、船の上に引き上げられるかがずっと不安でした。船の上では、みんなはらはらしていました。無事にランダーを引きあげたときは、ほっとしました。また、調査で得られた成果は、期待以上のもので、感激(かんげき)しました」と語ります。
ランダーをしずめる作業の様子は、動画でも見られます。
動画1:ランダーをクレーンでつり上げ、海にしずめています。
7703mの深海の撮影で確認できたこと、17ひきの魚、動きは活発
17ひきの魚:
ランダーにつけられたカメラには、水
深7703mの海の底の様子がはっきりと映っていました。その映像
からは、いくつもの発見がありました。えさに集まった魚は最も多いときで17ひきにもなりましたが、これほど多くの魚が撮影されたのは、大きな発見でした。深海
でくらす魚は数が少ないと考えられていましたが、今回の撮影で、意外に多くの魚がいることがわかりました。また、撮影された魚は体長30cmほどもあり、これまで考えられていたよりも、深海
で魚が成長することがわかりました。
動きは活発:
これまで、水
深6000mより深い海にすむ魚は、えさになる生き物が少ないので、動きがにぶいと考えられていましたが、今回の調査では、深海
でも活発に泳いでいることが確認できました。これまでの考えをくつがえすものでした。
わなに魚が入っていた:
深海
で撮影された魚は、ランダーについているわなに入っていました(写真4)。この魚は、カサゴの仲間のシンカイクサウオに似ていました。シンカイクサウオは、体長約20cmで、おたまじゃくしのような形をしています。松本先生は、「シンカイクサウオはこれまで千島海溝
(図1で場所が確認できます)で見つかっています。今回見つかった魚は、千島海溝
のものとよく比べてみる必要がありますが、新種の可能性もあります。確認作業を進めています」と言います。
7703mの深海
にいた魚の様子は、動画でも見られます。
動画2:海底のえさに、白い魚が集まっている。活発に泳いでいる。
松本先生からみなさんへのメッセージ
「今回の深海
での発見のように、地球にはわかっていないことがまだたくさんあります。これからも、多くの人と協力
して深海
の観測についての研究を進めます。そして、さまざまな困難をのりこえ、さらに深海
のなぞを明らかにしていきたいと思います。海に囲まれている日本では、海や海の生き物がきらいな人はほとんどいないと思います。わたしも海が大好きですし、海の研究は楽しいですよ。」(写真5)
2009年には、水
深9000mと、さらに深い場所の調査も予定されています。なぞに満ちた深海
の様子が明らかにされることを期待したいですね。



