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今週のトピックス

プラスチックを短時間で分解するカビを発見 これまでの約10分の1の時間

2008年12月01日    橘 悠紀(科学ライター)

プラスチック は便利な素材です。しかし、ごみとして処理(しょり)されるときには、さまざまな問題があります。たとえば、プラスチック のごみを燃やすと、有害なダイオキシン などのガスが発生 して、環境悪化(かんきょうあっか)の原因になります。また、土にうめても何十年もそのままで、分解 しません。そこで、生物のはたらきでプラスチック を分解 する「生分解 性(せいぶんかいせい)プラスチック 」が開発され使われるようになりました。しかし、分解 に時間がかかるという欠点がありました。このほど、生分解性プラスチック を短時間で分解 するはたらきのある生物(カビ )を発見することができました(写真1)。

写真1:生分解性プラスチックを短時間で分解するカビ。写真1を拡大しないで撮(と)ったのは写真3。 提供:農業環境技術研究所
写真2:農業用マルチフィルムがしかれている畑。これはふつうのプラスチックでできたマルチフィルム。 提供:農業環境技術研究所 *クリックすると大きくなります。

農業用に「生分解性プラスチック」が使われ始めている

農業では、作物の種をまいた後、地面に黒いシート=マルチフィルムをかぶせます。このマルチフィルムには、雑草が生えることを防ぐこと、土の温度を保ち、作物が育ちやすくすること、土のしめり気を保つことという役割があります。マルチフィルムには、ふつうのプラスチック でできているものと、生分解性プラスチック でできているものの2種類があります。(写真2)




「生分解性プラスチックのマルチフィルム」は、「ふつうのプラスチックのマルチフィルム」に比べてすぐれている

ふつうのプラスチック でできているマルチフィルムと、生分解性プラスチック でできているマルチフィルムでは、使い終わった後の処理が異(こと)なります。生分解性プラスチック でできているものの方が、以下のようにすぐれています。

ふつうのプラスチック のマルチフィルム:
使い終わった後のマルチフィルムは、回収(かいしゅう)して燃やすしかありませんが、回収する手間と費用がかかる。
生分解性プラスチック のマルチフィルム:
微生物 (びせいぶつ)のはたらきでマルチフィルムを分解 するので、回収して燃やす手間と費用がかからない。

しかし、生分解性プラスチックのマルチフィルムにも問題があった

問題:分解 するのに半年から1年も時間がかかる。(もし分解 しやすいものにしようとすると、かんたんにちぎれるような弱いものになってしまう。だから一定の強さをもつ生分解性プラスチック にしてある)

問題解決のため、生分解性プラスチックを速く分解する微生物を見つけたい

この問題を解決するために、プラスチック を使っている間は分解 しにくく、使い終わった後は強力 に分解 してくれる微生物 (びせいぶつ)を探(さが)すことに決めました。茨城(いばらき)県にある農業環境研究所の北本宏子(きたもとひろこ)先生と小板橋基夫(こいたばしもとお)先生は、何とかしてこ のような微生物 を見つけたいと思い、たくさんの微生物 を調べました。

植物の葉にいる微生物に目をつけ、生分解性プラスチックを速く分解する微生物を探す

このような微生物 を探す場合、ふつうは、土の中にいる微生物 を探すものです。しかし、北本先生たちは、今までとはちがうところ「構造(こうぞう)」に目 をつけました。植物の の表面の構造は、生分解性プラスチック の構造と似ていることに気がついたのです。そこで、めざす微生物 は、植物の葉 の表面にいるのではないかと考えたのです。小板橋先生たちは、葉 の表面にいる微生物 を一つ一つ分けるなどして、生分解性プラスチック を分解 するかどうかを試しました。

写真3:生分解性プラスチックを短時間で分解するカビ。写真3を拡大して撮(と)ったのは写真1。 提供:農業環境技術研究所 *クリックすると大きくなります。

ついに、生分解性プラスチックを短時間で分解する微生物(カビ)を発見

生分解性プラスチック を分解 する微生物 を探した結果、2007年に、微生物 の一種である酵母(こうぼ)を発見しました。そして、2008年には、生分解性プラスチック を分解 する微生物 の一種であるのカビ を多種類(12種類以上、現在も解明中)発見したのです。(写真3)

写真4:カビを使った場合と使わない場合で、生分解性プラスチックを分解させる実験。6日目の様子。上:カビを使って分解させたもの。ほとんど分解されている(91.2%分解)。下:カビを使わずに分解させたもの。分解が進んでいない(0%分解) 提供:農業環境技術研究所 *クリックすると大きくなります。

これまで半年~1年かけて分解していた生分解性プラスチックを、今回発見されたカビは20日で分解した

今回発見された多種類のカビ のうち1種類を使って実験すると、生分解性プラスチック を以下のように分解 しました(写真4)。
 0日目 ・・・ 0%(分解 されていない)
 6日目 ・・・91.2%(写真4上)
 20日目 ・・・100%(完全に分解 された)
カビ を使わないで、生分解性プラスチック を分解 させた結果は以下のとおりです(今まで使われていた分解 方法)。
 0日目 ・・・0%
 6日目 ・・・0%(写真4下)
 20日目 ・・・0.5%
これまで半年~1年かけて分解 していたのと比べると、今回の20日間で100%分解 とは、9分の1から12分の1の時間で分解 できたことになります。生分解性プラスチック は分解 に時間がかかるという欠点を、このカビ が解決してくれたのです。小板橋先生は、「今回見つかったカビ は、オオムギの葉 につくカビ です。カビ も酵母も、どちらも菌類 という生き物の仲間です。菌類 には、生分解性プラスチック を分解 するものも何種類かいますが、今回のカビ は、その中でもオリン ピック選手並みに分解 能力 が高いものです」と言います。

環境にやさしいカビの実用化に向けた研究が進む

このカビ を利用して生分解性プラスチック でできた農業用マルチフィルムを分解 する方法は、次の2つが考えられます。
1.使い終わったマルチフィルムをその場で分解 し、土に混ぜてしまう。分解 した後には有害な物質はできないので、土に混ぜても作物に影響はありません。
2.使い終わったマルチフィルムを回収して分解 し、素材をリサイクル する。この場合は資源の有効利用になります。
1、2どちらの方法でも、環境にやさしく、燃やして処理する必要もありません。今回の発見のニュースを聞いて興味をもった企業もあり、これから実用化への研究が進められます。

写真5:生分解性プラスチックを短時間で分解するカビを発見したと北本宏子先生(右)と小板橋基夫先生(左)。 *クリックすると大きくなります。

北本先生と小板橋先生からみなさんへメッセージ

今回、植物の葉 の表面の構造(こうぞう)は、生分解性プラスチック の構造と似ていることに目 をつけたことが、カビ の発見につながりました。科学の研究では、今までとちがう新しい見方・考え方で研究を進めるは大切なことです。「菌類 は、さまざまなものを分解 する微生物 ですが、まだ知られていないことがたくさんあります。これからも、新しい見方・考え方をもちながら、いろいろなことを明らかにしていきたいですね。みなさんも、目 のつけどころを変えることで、新しい発見につながることがあるかもしれませんよ」。(写真5)

カビ というと、よく思わない人が多いかもしれません。しかし、わたしたちの生活に役立ってくれる力 と可能性をもっているのですね。


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