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今週のトピックス

映像で災害状況を伝えるシステムを開発

2008年12月08日    橘 悠紀(科学ライター)

日本では、大地震 (じしん)などの災害が各地で発生 しています。災害が起きたとき、被害(ひがい)を最小限にとどめるには、速く正確に災害の規模(きぼ)や被害の状況(じょうきょう)の情報を集め、その情報を伝え対策(たいさく)を立て、救助やひなんの指示をすることが必要です。今回、災害現場の状況をビデオカメラで撮影(さつえい)して、その映像 をはなれた場所にいる人へ送るシステムが開発されました。現場の状況を映像 で伝えられるので、より適切な災害対策を立てるのに役立つと期待されています。

写真1:ビデオカメラとヘッドセットマイクがついた通信装置を装備した人。この人が災害現場に行って、災害に関する情報を集め、それを送る。 提供:明電舎

すばやく災害の情報を集め、それを伝えて対策を立てることが大切だが、今までの電話や無線による方法では不じゅうぶん

大雨 や地震 など大きな災害が起こると、国・県・市町村などでは災害対策本部を設置します。災害現場に人を行かせて、災害の情報を集めます。その情報を災害対策本部に送って対策を立て、救助隊の出動や住民へのひなん指示などを決めます。現在、災害現場と対策本部とのやりとりは、電話や無線を使用した音声でのやりとりがふつうです。しかし、この方法だと、情報が不正確だったり、対策本部に情報が伝わるまでに時間がかかったりすることがあります。その結果、指示を出すのがおくれ、さらに被害が広がってしまうおそれがあります。今までの電話や無線を使用したやりとりでは不じゅうぶんであるといえます。

写真2:情報を送るための通信装置。カーナビゲーションシステムと同じGPS機能がついている。また、水にぬれても使えるよう防水加工がしてある。3つのボタンでかんたんに操作できる。 提供:明電舎 *クリックすると大きくなります。

すばやく災害の情報を集め、それを伝えて対策を立てられる新しいシステムを開発

電気機器などを製造する明電舎(めいでんしゃ)では、災害が起きたときに、より速く、より正確に情報が伝えられる方法ができないかと、研究を重ねました。そして、現場から映像 を送って災害対策に役立てるシステム「リアルフィールド ジオ」を開発しました。「リアルフィールド ジオ」は、次のようなシステムです。
 1.ビデオカメラとヘッドセットマイクがついた通信装置を持った人が、災害現場にかけつける。(人が写真1)(通信装置が写真2)
 2.ビデオカメラで現場の状況を撮影する。
 3.通信回線を通じて、現場の状況を対策本部にあるパソコンに送る。
 4.対策本部ではパソコンで情報を確認。対策を立て行動する。
 (図1)
なお、「リアルフィールド」とは「現場の状況をおくれることなくその時その時」、「ジオ」は「地理」を意味しているそうです。

図1:「リアルフィールド ジオ」のしくみ。 *クリックすると大きくなります。

通信装置には、カーナビゲーションシステムと同じGPS 機能がついていて、対策本部では、情報を送っている人の位置がコンピュータ の地図上に自動的に映し出されます(写真3)。また、災害現場の映像 がコンピュータ に映し出されます。さらに、現場の人は、ヘッドセットマイクを使い、音声で対策本部に状況を知らせることができます。対策本部では、どこでどのような被害が出ているかひと目 でわかり、これらの情報をもとに、救助隊を送る場所を決めたり、ひなんの指示を出したりできます。また、災害現場の人に、撮影する場所の指示もできます。

写真3:対策本部側のコンピュータ画面。災害現場の状況が一目でわかる。①災害現場の位置(情報を送付した場所が自動的に地図上にあらわれる) ②負傷者の状況 ③現場全体の状況 提供:明電舎 *クリックすると大きくなります。

災害が起こったときにも必ずつながる回線をもっている新しいシステム

大きな災害が起こると、電話などの通信回線が被害を受け、災害現場との通信ができなくなってしまうことがあります。しかし、「リアルフィールド ジオ」は、携帯電話の回線のほか、人工衛星 を利用する回線も使えます。この回線は、電話など通常の通信回線が使えなくなった場合でも、また、携帯電話が通じない場所でも利用することができます。

写真4:システム開発の中心となった、明電舎の佐々木健二さん。 *クリックすると大きくなります。

これまでにあった技術を組み合わせてつくった、新しいシステム

「リアルフィールド ジオ」に使われているそれぞれの技術は、これまでにあったもので、新しいものではありません。しかし、今回のように、災害対策に生かすために、これまでにあった技術を組み合わせシステムをつくったことに新しさがあります。システム開発の中心となった明電舎の佐々木健二(ささきけん じ)さんは、「音声だけで災害状況を説明するのは、情報を伝える側にも、受ける側にも負担(ふたん)がかかってしまいます。しかし、映像 を使えば、負担が少なく、速く正確に伝えられると考えて開発を進めました。社内のそれぞれの部署ごとの考え方などを一つにまとめるのが大変でしたが、技術を合わせたからこそよいシステムができました。災害時に人命を助ける仕事 の補助になるシステムを開発できたと思います」と言います(写真4)。

写真5:2008年10月、三重県松阪市で行われた防災訓練の様子。災害でけがをした人の状況を対策本部の医師に伝える想定で行われた。写真は、災害現場から送られてきた映像を見る医師。 提供:明電舎 *クリックすると大きくなります。

このシステムを使った大規模な防災訓練が、三重県で行われた

2008年10月 、三重県松阪市の山間部で防災訓練が行われました。訓練は、大規模な地震 が発生 して、近くに病院がない地域で多数の負傷者が出たという想定です。訓練では、「リアルフィールド ジオ」を使って、災害で負傷した人の情報を集め、対策本部にいる医師に伝えました(写真5)。

訓練の様子は動画でも見られます。
動画の説明:「リアルフィールド ジオ」が使われた防災訓練の様子。医師が、災害現場にいる負傷者の状況についてたずね、現場の人とやりとりしている。 提供:明電舎


三重県で行われた防災訓練で確認できた、このシステムの利点や可能性

近くに病院がない地域で負傷者が出た場合、できだけ死者を少なくするためには、けがの程度を判断し、程度の重い負傷者から病院に運び、処置していくことが大切です*。また、あらかじめ、これから負傷者を運ぶ病院の医師にけがの状況を伝えておけば、病院側で受け入れ態勢を整えておくことができます。これらのことが、このシステムを使ってスムーズに行えることが、今回の訓練で確認できました。訓練に参加した医師からは、「負傷者の様子を映像 で見ることができると、けがの状況などが伝わりやすい」という感想が聞かれました。この訓練にたずさわった松阪市役所安全防災課防災危機管理室の彌田洋岳(いよだひろたけ)さんは、「災害の状況を映像 で伝えるという着眼点は、大変すばらしいものです。今後の訓練に活用し、その結果をシステムの改良に生かせれば、さらによいものになると思います」と言います。

「リアルフィールド ジオ」は、すでに静岡県沼津市や熊本県熊本市で運用が始まっています。災害が発生 した時、一人でも多くの人を助けるために、このシステムが生かされることを期待したいですね。

*けがの程度を判断し、程度の重い負傷者から処置をしていくよう優先度を決めることを、「トリアージ」(フランス語で「選別」)といいます。


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