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今週のトピックス

日本人初めて、宇宙での長期滞在に出発。若田さん搭乗のシャトル打ち上げ

2009年03月24日    中島 仁(Jean Nakashima)

日本人宇宙 飛行士として初めて国際宇宙ステーション (ISS)に約3ヶ月 間の長期滞在する若田光一(わかた こういち)さん(45)。スペースシャトル ・ディスカバリーに搭乗(とうじょう)した若田さんの打ち上げの瞬間(しゅんかん)を、米国ケネディ宇宙 センターで見守った航空ジャーナリスト・写真家の中島 仁(なかしま じん)さんからのレポートが届きました。

ⓒJean Nakashima, 2009 *クリックすると大きくなります。さらにマウスをおしながら自由に動かせます。
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■歴史に新たな1ページ

3月 15日午後7時43分(米国東部時間)(日本時間3月 16日午前8時43分)、西の空が赤々と燃えて太陽 がゆっくり地平線に沈(しず)んだ10分後、人類の作った第二の太陽 はごう音で大気を震(ふる)わせながら一直線に上昇(じょうしょう)すると、情熱 の炎(ほのお)でフロリダの空を熱 く焦(こ)がしながら瞬(またた)く間に東の空へ遠ざかっていく。

“Lift off of Space Shuttle Discovery, taking the space station to full power for full science.”
「スペースシャトル ・ディスカバリー号は国際宇宙ステーション での実験・研究をフルに可能にする(最後の太陽電池 パドルを積んで)いま打ち上げられました」 

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このディスカバリー号に、みなぎ るフルパワーで国際宇宙ステーション に向かった1人の日本人宇宙 飛行士の姿(すがた)があった。その人の名は若田光一さん。今日からは地球以外の場所に住む日本人が1人、紛(まぎ)れもなく歴史に新たな1ページが書き加えられた記念すべき日だ。その瞬間(しゅんかん)・・・、ディスカバリー号の残した光跡(こうせき)が七色に輝(かがや)いた。それは、人類が作り出した究極の技術と勇気に母なる地球がそっとほほ笑みかけた瞬間だった。

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■危険を冒すことの代償

今回の飛行準備では打ち上げが5回も延期(えんき)された。周囲はやきもきし、家族は不安を感じたかもしれない。若田さん自身も初めての経験だったという。宇宙 旅行には危険(きけん )が伴(ともな)う。しかし現場に近ければ近いほど、安全な飛行のために全力 を尽(つ)くす心地良い緊張感(きんちょうかん)が持続していた。それは大航海時代にコロンブスが新大陸を発見し、バスコ・ダ・ガマが新航路を開拓(かいたく)するために未知の世界へと船出した勇気と探究心(たんきゅうしん)とも類似している。その代償(だいしょう)として僕(ぼく)たちが今日享受(きょうじゅ)する知見は計り知れない。地球から隔絶(かくぜつ)された宇宙 空間に人類が住むことの意味。それは単に命を賭(か)けた冒険(ぼうけん )に技術の粋(すい)を試すのではなく、最新技術がこの極端(きょくたん)な環境(かんきょう)で機能するかを試すためだけでもない。危険を冒(おか)すことの代償として、そこで行われる仕事 が人類にとって新しい知見をもたらし、地球上にいる僕たち1人1人の生活を知的かつ豊かにする新しい技術を生み出す大切なものだからなのだ。

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「体調はバッチリです!頑張(がんば)ってきます。ありがとうございました」 

若田さんが報道陣(ほうどうじん)に向かって元気な声で話しかける。でも若田さんが放つオーラを感じれば、全てがバッチリであることは誰(だれ)が見ても一目 瞭然(いちもくりょうぜん)だ。大投手が雨 天順延(うてんじゅんえん)さえも味方につけて自らの体調に万全を期すかのように、その姿は自信に満ち溢(あふ)れていた。見守ることしかできない僕たちにできることは、せめて全力 で応援(おうえん)することだけだ。だから勇気をあげようとこの場に立ち、逆に勇気をもらって帰ってきてしまった。何ということだろう! 

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“Be the best, and be the first.”
(最高であること、そして、最初(パイオニア)であること)

まさに若田さんのためにあるような言葉 だった。人間の身体能力 には限界がある。大脳 幹細胞 (だいのうかんさいぼう)の数は成人で約100-180億個。しかし、大脳 という限られた容積と空間の中で、人間はまだ見ぬ無限の空間を想像 し探索(たんさ)することさえできる。そう、頭脳 (ずのう)には限界がない。「未知の世界への好奇心」動機が空腹であれ、知への渇望(かつぼう)であれ、自分の意志で移動できる地球上の動物に共通の感情だ。中でも経験から学び、未経験の世界を想像 する部分において人間は他の動物より長(た)けている。そして冒険の旅に安心して出かけられるのも家族の絆(きずな)、見守られている地球への帰巣本能(きそうほんのう)が常に満足されているからに他ならない。

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■信頼と祈りとともに

ロケットの打ち上げは純粋(じゅんすい)なサイエンスだ。だから、そこに精神の入り込(こ)む余地などないはずなのに、最後は「うまく行って」というみんなの祈りがスペースシャトル を持ち上げる。打ち上げの瞬間に何度立ち会っても、僕はいつも感極(かんきわ)まって泣いてしまう。それは打ち上げに関わった全ての人の真っ直(す)ぐな優(やさ)しさと込められた濃密(のうみつ)な思いが、無限の空間に向かって開放されるこの瞬間に、はっきりと目 に見えるからだ。スペースシャトル が解き放つ光の強さは人間の情熱 の強さ、音の大きさは人間の揺(ゆ)るぎない意志の固さ、にさえ思えてくる。

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打ち上げの瞬間、宇宙 飛行士は自らの命さえ預けて船に乗る。船を完璧(かんぺき)な状態に仕上げてもらい、自らに課されたミッションを貫徹(かんてつ)することしか考えていない。そこには不安や疑念(ぎねん)のかけらもなく、人間が人間を心の底から信じる真のチームワークが分かりやすい形で抽出(ちゅうしゅつ)されている。そう、スペースシャトル は人類が作った究極の乗り物のはずなのに、打ち上げの瞬間は「他人を信じきること」の美しさ、そして「祈り」というサイエンスとは対極にある人間のスピリッツの部分がこれ以上ないほど明確な形で結晶 しているのだ。 

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打ち上げ責任者のマイク・ラインバックさんはこう語った。「私は数多くのロケット打ち上げに携(たずさ)わってきました。そして、今晩(こんばん)の打ち上げは今までで最も美しい打ち上げでした」そう、僕たちの宇宙 船ディスカバリー号には人類の揺(ゆる)ぎ無い魂(たましい)が込められている。ホモ・サピエンス としてこ の地球に生を受けたことを誇(ほこ)りに思える打ち上げの瞬間は、人類の未来を明るく照らす希望の雄叫(おたけ)びそのものだった。 

頑張れ!若田さん!! 

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プロフィール 
中島 仁(なかしま じん) 
1968年2月 生まれ。現在、米国で植物生理学関連の研究所でトップマネージャーとして勤務。一方、Jean Nakashimaの名前で航空ジャーナリスト・写真家としても活躍(かつやく )。活動は官民軍の枠(わく)にとらわれる事なく、セスナから熱 気球まで航空のほぼ全ての分野を網羅(もうら)し、現場におもむいては生の声を聞く取材による作品を発表し続けている。 


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