かがくナビ

  • 初めての方
  • 文字サイズ
  • 大
  • 中
  • 小
  • home
  • 科学ニュース
  • 自然だより
  • 特派員レポート
  • 科学ムービー
  • ブックナビ
  • ナビコラム
  • 特集
  • ブログ
  • ナビのひろば

HOME > 読む > 科学ニュース

今週のトピックス

歯周病菌がつくり出す酪酸が、エイズウイルスを活性化させる

2009年03月30日    橘 悠紀(科学ライター)

口の中の細菌が、歯ぐきなどを傷める病気を、歯周病(ししゅうびょう)といいます。この歯周病の原因となる細菌(さいきん)(写真1)からつくられる物質が、エイズという病気の原因であるウイルス を増殖(ぞうしょく)することがわかりました。

写真1:歯周病を起こす歯周病菌。これがつくる物質が、HIVを活性化させることが今回わかった。 写真提供:日本大学歯学部 落合邦康
写真2:歯周病の写真。食べ物の残りかすをそのままにしておくと、細菌が増え、それが歯こうとなり、歯肉炎となる。さらに重くなると歯周病となる。 写真提供:日本大学歯学部 伊藤公一

細菌が引き起こす歯周病

歯周病になってしまった人の写真です(写真2)。歯周病は、以下のようになってしまう感染症 (細菌やウイルス がうつることで起きる病気)です。
◆1.わたしたちの口の中には、 には見えないが、たくさんの種類の細菌がいる。その中には、人間に必要な細菌もいるが、害になる細菌もいる。食べ物の残りかすが、口の中に残っていると、そこに、害になる細菌が増える。
◆2.これらの細菌が、いろいろな物質をつくり、それらがやがて歯こうとなる。
◆3.歯こうが、歯の表面や、歯と歯ぐきの間などにたまったままにしておくと、歯ぐきのはれや出血などを引き起こす。このような症状を歯肉炎(しにくえん)といい、さらに重くなると、歯周病とよばれる。

歯周病になると、他の病気につながるおそれもある

歯周病は、日本人の成人のおよそ8割がかかっているといわれます。歯周病によって起きる炎症部分でできた物質は、血液 に入り、体のほかの場所に移動します。そのため、口の中だけでなく、ほかの部分の病気にもつながるおそれがあると言われます。最近の研究では、歯周病が糖尿 病(とうにょうびょう)や動脈 硬化(どうみゃくこうか)などの病気にも悪い影響(えいきょう)をあたえることがわかっています。

歯周病とエイズ、結びつけて考える必要があるのではないか

日本大学歯学部細菌学教室教授の落合邦康(おちあいくにやす)先生は、長年、歯周病の原因となる細菌や、歯周病菌がつくり出す(分泌〈ぶんぴつ〉する)物質が人体にあたえる影響などの研究をしていました。そうするうち、歯周病菌などが人体にあたえる影響は、歯科の分野の研究だけでなく、医学のほかの分野の研究と結びつけて考える必要があると感じました。研究を進めるうち、落合先生は、エイズが発症(はっしょう)するしくみに興味をもち、歯周病とエイズを結びつけて考えるようになりました。

エイズは、HIVが体に入ってから半年~20年後に発症する。現在、この病気を治す薬はない

エイズという病気は、後天性免疫 不全症候群(こうてんせいめんえきふぜんしょうこうぐん)とよばれ、HIV(ヒト免疫 不全ウイルス )というウイルス に感染 (かんせん)することが原因でかかります。エイズは、人間が、病気のもとになる細菌やウイルス とたたかう免疫 というはたらきを弱くしてしまいます。すると、弱い病気でも症状が重くなり、死んでしまうこともあります。エイズは、HIVが体に入ってもすぐに症状が現れるわけではありません。半年から20年後にHIVが活性化し、急激(きゅうげき)に増えることによって病気が発症します。今のところ、体の中のHIVをすべて殺す方法はありませんが、HIVが増えるのをおさえる薬はあります。しかし、この薬には、副作用があるという問題がありました。

図1:エイズが発症するしくみ。HIVが増えるのをおさえていたHDACのはたらきがなくなると、エイズが発症する。 *クリックすると大きくなります。さらにマウスをおしながら自由に動かせます。

エイズがいつ、どのように発症するかはわからなかった

これまで、HIVが、体の中で、いつ、どのようなきっかけで増え出すかは、わかっていませんでした。しかし、最近の研究で、HIVは、細胞 の中でつくられる、HDAC(ヒストン脱アセチル化酵素 〈こうそ〉)という物質によって増えるのがおさえられていることがわかりました。HDACのはたらきがなくなってしまうと、HIVが増えるのです(図1)。HDACのはたらきをなくしてしまう物質として、トリコスタンチンという物質があげられていました。




歯周病菌がつくり出す物質、酪酸に注目した落合先生

落合先生は、歯周病菌がつくり出す物質のうち、酪酸 (らくさん)という物質に注目 しました。酪酸 も、トリコスタンチンと同じように、HDACのはたらきをなくすからです。落合先生は、HIVについてくわしく研究している名古屋市立大学の岡本尚(おかもとたかし)先生や今井健一(いまいけん いち)先生と協力 して、酪酸 がHDACのはたらきをなくし、エイズが発症するきっかけになるかどうかを確かめる実験をしました。以下のように、実験1・実験2の2段階で行いました。

実験1:エイズ発症のきっかけ(HIVの活性化)の一つは、歯周病菌がつくり出す物質ではないか、実験で確かめる

●1.HIVに感染 した細胞 を用意する。
●2.1のHIVに感染 した細胞 に対して、
・歯周病菌がつくり出した物質(濃度 が低い)を加える。
・歯周病菌がつくり出した物質(濃度 が高い)を加える。
・何もしない。
・歯周病菌を加える。
・HIVを活性化させるTNF-αを加える。
●3.HIVが増殖したときにつくられるウイルス のたんぱく質(抗原〈こうげん〉)という物質がどれくらいできているかを調べる。

図2:歯周病菌と歯周病菌がつくり出した物質が、HIVを活性化させるかどうかを調べる実験の結果。 *クリックすると大きくなります。さらにマウスをおしながら自由に動かせます。

実験1の結果:歯周病菌がつくり出した物質で、HIVが活性化することがわかった

歯周病菌(菌体)を加えても抗原はほとんどできませんでしたが、歯周病菌がつくり出した物質を加えると、抗原がたくさんできることがわかりました。このことから、HIVでは、歯周病菌そのものではなく、歯周病菌がつくり出す物質によって活性化することがわかります。(図2)





実験2:歯周病菌がつくり出す物質を分析する

さらに、研究グループは、歯周病菌がつくり出す物質を、ガスクロマトグラフィー という方法で分析(ぶんせき)する実験をしました。

実験2の結果:歯周病菌がつくり出した物質のうち、HDACのはたらきをなくすのは、酪酸だけだった

歯周病菌がつくり出した物質のほとんどは酪酸 で、そのほかの酢酸 、プロピオン酸 、吉草酸 はごく微量でした。また、酪酸 以外の酢酸 、プロピオン酸 、吉草酸 は、HDACのはたらきをなくす物質ではないことがわかっています。このことから、HIVは歯周病菌がつくり出した物質のうち、酪酸 によって活性化することをつきとめました。こうして、落合先生の考えが正しいことがわかったのです。

酪酸はHIVを活性化するきっかけのひとつ。今後の研究によりエイズの発症をおさえる可能性も

落合先生は、「今回の実験で、歯周病菌がつくり出す酪酸 が、HIVが活性化するきっかけのひとつであることがわかりました。歯周病が糖尿 病などと関係していることからもわかるように、歯周病は、口の中だけでなく、さまざまな病気と関係しているのです。今後は、動物を使った実験でも、歯周病菌がつくり出す物質とHIVの活性化の関係を調べていく予定です」と言います。今回の研究が進めば、ある面でエイズの発症をおさえることにつながる可能性もあります。

写真3:歯周病菌がつくり出す酪酸が、HIVを活性化させることを明らかにした日本大学歯学部細菌学教室教授の落合邦康先生。 *クリックすると大きくなります。さらにマウスをおしながら自由に動かせます。

落合先生からみなさんへのメッセージ

「近年は、若い人にも歯周病の手前の歯肉炎が増えています。若いうちから、歯みがきの習慣を、しっかりつけてください。歯みがきをすることは、虫歯・歯肉炎・歯周病などになりにくくすることはもちろん、そのほかの病気にもなりにくくするのです」(写真2)(写真3)

写真4:歯みがきをする習慣は、虫歯・歯肉炎・歯周病になりにくくすることはもちろん、そのほかの病気にもなりにくくする。 *クリックすると大きくなります。さらにマウスをおしながら自由に動かせます。

歯周病は、口の中だけの病気だと、軽く考えてはいけません。体全体に影響のある病気だと意識して、日ごろから歯の健康に気をつけたいものです。(写真4)









Bbs_button