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今週のトピックス

がん細胞ができるのをおさえる遺伝子のしくみがわかった

2009年04月13日    橘 悠紀(科学ライター)

がんは、正常な細胞 (さいぼう)が、がん細胞 に変化して、どんどん増えてしまう病気です。健康な体では、正常な細胞 が、がん細胞 に変化することを防ぐ遺伝子 (いでんし)がはたらいています。これまで、遺伝子 が、どのようにがん細胞 への変化を防いでいるかがわかっていませんでしたが、今回、そのしくみが明らかになりました。

写真1:がんにならずにすんだ細胞。その理由は、一番外側の細胞膜が、がんをおさえる遺伝子PHLDA3(赤)と結合し、内側のがん遺伝子Akt(緑)のはたらきをおさえたから。 写真提供:国立がんセンター

細胞が死ぬことなく、どんどん増えてしまうがん

わたしたちの体は、たくさんの細胞 が集まってできています。細胞 は、分裂(ぶんれつ)して増え、古い細胞 は死にます。ところが、正常な細胞 ががん細胞 に変化すると、がん細胞 は死ぬことがなくどんどん増え、体内に広がってしまいます。それが、がんです。がんになると、正常な細胞 が吸収(きゅうしゅう)する栄養をがん細胞 が吸収してしまうため、体は弱り、さらに状態が悪くなると死んでしまいます。

がんは、完全に治療するのが難しい

いったんがん細胞 ができ始めると、その部分を切るなどの治療(ちりょう)が行われますが、がん細胞 がほかの部分に移ることもあり、完全に治療するのは難(むずか)しい場合もあります。

図1:細胞の構造。 *クリックすると大きくなります。さらにマウスをおしながら自由に動かせます。

がん細胞をつくる「がん遺伝子」と、がんをおさえる「がん抑制遺伝子」

細胞 の中の には、遺伝 の情報をもつDNA があります。DNA の中で、遺伝 の情報をもっているものが遺伝子 です(図1)。ヒトの遺伝子 は約2万2000種類ありますが、その中に、以下の2つの遺伝子 があります。

◆がん遺伝子 =正常な細胞 をがん細胞 に変化させる遺伝子
◆がん抑制(よくせい)遺伝子 =がん遺伝子 のはたらきを抑制する(=おさえる)などして、がん細胞 ができるのを防ぐ遺伝子

健康な体では、がん抑制遺伝子 がはたらいて、がん細胞 ができるのをおさえています。ところが、紫外線 (しがいせん)やたばこなどで、がん抑制遺伝子 のはたらきが損なわれると、がん遺伝子 のはたらきが活性化し、がん細胞 ができてしまいます。

がん遺伝子Akt、がん抑制遺伝子p53

これまでの研究で、ほとんどのがん細胞 で、Aktという遺伝子 のはたらきが活性化していることがわかっていました。つまり、Aktはがん遺伝子 です。ただし、Aktには、細胞 を増やすはたらきもあり、細胞 にとっては必要な遺伝子 です。

これまでの研究で、ほとんどのがん細胞 で、p53という遺伝子 がはたらきを失っていることがわかっていました。つまり、p53はがん抑制遺伝子 です。

p53がAktのはたらきをおさえていることは予想されていましたが、どのようにAktのはたらきをおさえているかは、わかっていませんでした。

p53が、どのようにAktのはたらきをおさえているかを明らかにしたい

国立がんセンター研究所の大木理恵子(おおきりえこ)先生たちの研究チームは、p53が、どのようにAktのはたらきをおさえているかを明らかにしたいと考え、研究をしていました。

がん抑制遺伝子p53が活性化すると増えるPHLDA3に注目する

多くの遺伝子 について調べ、p53のはたらきが活性化すると、PHLDA3という遺伝子 が増えることをつきとめました。そこで、PHLDA3に、Aktのはたらきをおさえる(=がんをおさえる)はたらきがあるのではないかと予想しました。その予想が正しいかどうかを確かめるため、以下の実験1、2を行いました。

実験1 PHLDA3にはどのようなはたらきがあるのか?

大木先生たちは、まず、次のような実験をしました。

図2:実験1の手順。がん細胞Aには、PHLDA3を入れ、がん細胞Bには、PHLDA3を入れない。 *クリックすると大きくなります。さらにマウスをおしながら自由に動かせます。

実験1の手順 (図2)

1.同じがん細胞 を2つ、A、Bを用意する。
2.AにはPHLDA3を入れる。BにはPHLDA3を入れない。
3.A、Bそれぞれ、がん細胞 がどうなったかを観察する。

写真2:実験1の結果。PHLDA3を入れたがん細胞A(左)と、PHLDA3を入れないがん細胞B(右)。Aのがん細胞は死んでいるが、Bのがん細胞はほとんど生きている。 写真提供:国立がんセンター *クリックすると大きくなります。さらにマウスをおしながら自由に動かせます。

実験1の結果 PHLDA3には、がん細胞をおさえるはたらきがあることがわかった

A.PHLDA3を入れたがん細胞 =ほとんどのがん細胞 が死んでいた
B.PHLDA3を入れないがん細胞 =ほとんどのがん細胞 が生きていた。

以上のA、Bから、PHLDA3には、がん細胞 をおさえるはたらきがあることがわかります。(写真2)






実験2 PHLDA3が、どのようにしてAktのはたらきをおさえているか?

次に、PHLDA3が、どのようにしてAktのはたらきをおさえているかを調べる実験をしました。

図3:実験2の手順。がん細胞Aには、PHLDA3とAKTを入れる。がん細胞Bには、はたらけなくしたPHLDA3とAktを入れる。 *クリックすると大きくなります。さらにマウスをおしながら自由に動かせます。

実験2の手順 (図3)

1.同じがん細胞 を2つ、A、Bを用意する。
2.AにはPHLDA3とAktを入れる。
  BにはPHLDA3(はたらけなくしたもの)とAktを入れる。
3.A、Bそれぞれ、PHLDA3とAktがどうなったかを観察する。

写真3:実験2の結果。左は、がんにならずにすんだ細胞。その理由は、一番外側の細胞膜が、がんをおさえる遺伝子PHLDA3(赤)と結合し、内側のがん遺伝子Akt(緑)のはたらきをおさえたから。右は、がんになってしまった細胞。その理由は、一番外側の細胞膜が、がん遺伝子Akt(緑)と結合し、内側のがんをおさえる遺伝子PHLDA3(赤)がはたらけなくなったから。 写真提供:国立がんセンター *クリックすると大きくなります。さらにマウスをおしながら自由に動かせます。

実験2の結果 PHLDA3は、Aktより細胞膜と結合する力が強い。PHLDA3は細胞膜と結合し、内側のAktのはたらきをおさえる(写真3)

A:PHLDA3が、一番外側の細胞膜 という部分と結合していた。Aktは細胞膜 と結合していなかった。→がんにならずにすんだ。
B:Aktが、細胞膜 と結合していた(PHLDA3ははたらけなくしたものだったので細胞膜 と結合しなかった)。→がんになってしまった。

以上のA、Bから、PHLDA3は、Aktより細胞膜 と結合する力 が強いことがわかります。また、PHLDA3は細胞膜 と結合し、内側のAktのはたらきをおさえる(=がんにならずにすむ)ことがわかります。

図4:p53が活性化して、Aktのはたらきをおさえるまでのしくみ。 *クリックすると大きくなります。さらにマウスをおしながら自由に動かせます。

Aktのはたらきを直接おさえているのはPHLDA3だった

Aktは、細胞膜 と結合すると活性化し、正常な細胞 をがん細胞 に変えることがわかっています。大木先生は、「p53が活性化してPHLDA3が増えると、PHLDA3が細胞膜 と結合し、Aktが結合できなくしているということがわかりました」と言います。このしくみをまとめると、以下のようになります。
1.p53(がん抑制遺伝子 )が活性化する
2.PHLDA3が増える
3.Akt(がん遺伝子 )のはたらきをおさえる
4.がん細胞 ができない(図4)
Aktのはたらきを直接おさえているのがPHLDA3ということがわかったので、がんの新しい治療や診断法(しんだんほう)につながると考えられます。

写真4:遺伝子が、がんを抑制するしくみを明らかにした国立がんセンターなどの研究チームの大木理恵子先生。 *クリックすると大きくなります。さらにマウスをおしながら自由に動かせます。

大木先生からみなさんへのメッセージ

「人間の体の中には、 に見えない小さな細胞 が無数にあります。小さな細胞 の中では、さらに小さな分子 たちの世界が広がっています。細胞 の中で、どのようにして分子 たちがはたらき、わたしたちの健康が保たれているのか調べることが、がんの研究につながります。これからも、がんを克服(こくふく)するための研究を続けていきたいと思います」(写真4)






遺伝子 のはたらきについては、まだまだわからないことがたくさんあります。今後、遺伝子 の研究が進み、がんの治療法が進歩することを期待したいですね。


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