HOME > 読む > 科学ニュース
多数見つかった深海魚リュウグウノツカイ
2010年04月12日 滝田よしひろ
2009年11月 ころから日本海側の各地で、深海 魚リュウグウノツカイが浜辺に打ち上げられたり、定置網(ていちあみ)などにかかり、新聞やニュースで話題になっています。深い海に棲(す)み、めったに姿をあらわさない深海 魚が、この冬、日本海側で20匹以上も目 撃(もくげき)されたのはなぜなのでしょう。
|
|
| 富山県・黒部市の海岸に打ち上げられたリュウグウノツカイ。魚津水族館でこの標本が展示されている。 |
謎の深海魚リュウグウノツカイ
「全身が輝くように銀 色に光り、ヒレは真っ赤。頭の近くの背ビレと腹ビレが長くのびて、本当に美しい魚でした。20年近く水 族館で働いていますが、標本(ひょうほん)でなく実際にリュウグウノツカイを目 にするのは初めてで、とても感動しました」。富山県・魚津水 族館の飼育研究係・門田信幸さんは、12月 に黒部市の海岸に打ち上げられた長さ約4mもある大きなリュウグウノツカイを目 にしたときの気持ちをこう話します。富山湾では、その後も定置網に3匹のリュウグウノツカイがかかったことが確認されています。また、となりの石川県でも、5匹ほどが海岸で見つかったそうです。さらに、福井県、京都府、兵庫県、山口県、長崎県など日本海側の各地の海岸で、この冬、リュウグウノツカイが見つかっています。「これほどたくさん報告されたことは、これまでなかったですね」と門田さんはいいます。
リュウグウノツカイは、世界中の海の深度200mより深いところに棲むといわれ、なかには10m以上にまで成長した巨大なものも見つかっています。魚(硬骨 〈こうこつ〉魚類 )の仲間では最大級の長さで、その銀 色で薄い体は、まるで刀(かたな)のようです。エビやオキアミなどを食べているといわれますが、どのように生活しているのか、その生態(せいたい)はほとんど分かっていません。このリュウグウノツカイとよく間違えられるのがサケガシラという深海 魚で、富山湾でも数多く網にかかったり、海岸で見つかっているそうです。「魚津水 族館にも、これまでにリュウグウノツカイを見つけたと連絡が入ることがありましたが、すべてサケガシラでした」と門田さんは話します。
太平洋側ではほとんど報告なし
ところで、同じ時期に太平洋側でもリュウグウノツカイは多く見つかっていたのでしょうか。駿河湾に面した静岡県・三保半島にあり、かつて駿河湾(するがわん)の定置網にかかった長さ約5mのリュウグウノツカイの標本を展示している、静岡県・東海大学海洋科学博物館の学芸員(がく げいいん)・冨山晋一さんに話を聞いたところ、「太平洋側の海岸でみつかったという話は聞いていません」といいます。太平洋に面した駿河湾(するがわん)は、湾の入り口が水 深約2,500mもあり、海岸のすぐ近くまで深い海が迫っている国内でいちばん深い湾です。毎年、秋から春にかけて多くの深海 魚が海岸に打ち上げられることで知られています。「寒い季節は深海 魚が打ち上げられやすい時期です。海の表面の海水 温度が下がり、冷えた水 が深くまで沈み込み、下の海水 が押し上げられる対流 (たいりゅう)がおきやすく、深海 魚が浅瀬(あさせ)に運ばれやすくなるからだろうと 考えています。また、駿河湾の場合は、冬の強い北西の季節風 によって表面の海水 が沖へ流され、それをおぎなうために、海岸近くでは深いところの海水 が上昇(じょうしょう)する湧昇流(ゆうしょうりゅう)と呼ばれる現象が発生 します。その流れに乗って深海 魚が運ばれてくることも、打ち上げられる深海 魚が多い理由と考えられます」と冨山さんは話します。
日本海側でリュウグウノツカイが多く見つかったことについて、冨山さんは「冬は、強い北西の季節風 が吹きますから、日本海側で浅いところに上がった深海 魚が陸側に流されて、海岸に打ち上げられる可能性は高くなると思います。リュウグウノツカイは、太平洋などの大洋の沖合いに分布しているといわれています。多くのリュウグウノツカイが太平洋から日本海に流れ込む対馬暖流 (つしまだんりゅう)に乗ってやって来たことが考えられますが、はっきりとした原因は分かりません。また、今年だけでなく、今後もたくさん見つかるようなら、環境の変化など何らかの理由があるかもしれません」といいます。魚津水 族館の門田さんは、「富山湾でも、やはり湧昇流によってリュウグウノツカイなどの深海 魚が浅いところに運ばれる可能性は高いと思います。ただ、太平洋から海流に乗ってやって来たのではなく、もともと日本海にもリュウグウノツカイが多くいるのではないかと考える人もいます」と話します。はっきりとした理由は、専門家にもまだ分かっていません。
深海魚にも環境汚染(おせん)の影響
ただ、別の深海 魚で、気になることがおきています。東海大学海洋科学博物館の調査で、駿河湾沿岸に打ち上げられたミズウオという深海 魚の胃 袋を調べたところ、その約8割の胃 のなかからプラスチック 製品が見つかったのです。湧昇流に乗って浅いところに現れたミズウオがプラスチック ごみを飲み込んで弱ってしまい、海岸に打ち上げられた可能性があるといわれています。環境汚染は、海のなかでもおきています。リュウグウノツカイが、まさに深海 からの使者(ししゃ)として、そうしたことを伝えに私たちの前に現れたのでないことを祈りたいですね。


