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【「環境の日」スペシャル企画】
増え続ける大気中の二酸化炭素と海の酸性化(さんせいか)
2010年06月07日 滝田よしひろ
2010年5月 12日、気象庁 は、国内で観測された4月 の大気中の二酸化炭素 の濃度 (のうど)が、観測を始めてからこれまでで最も高い数値だったことを発表しました。また、2009年の大気中の二酸化炭素濃度 の年間の平均値もこれまでで最高でした。そして、大気中で増え続ける二酸化炭素 が、海のなかで暮らす生物たちにも大きな影響(えいきょう)をおよぼしつつあることが心配されています。
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| 国内3地点で観測された大気中の二酸化炭素濃度(月平均)の変化。資料提供:気象庁 |
大気中で増え続ける二酸化炭素
気象庁
では、綾里(りょうり 岩手県大船渡市)、南鳥島(みなみとりしま 東京都小笠原村)、与那国島(よなぐにじま 沖縄県八重山郡)の国内3地点で、大気中の二酸化炭素
の濃度
を観測しています。その結果、2010年4月
の観測値(月
平均値)は、綾里が396.8ppm
(ピーピーエム:数や量が百万分のいくつを占めるかを表わす。ここでは大気中の濃度
を示している。1ppm
=0.0001%)、南鳥島が393.3ppm
、与那国島が396.2ppm
となり、すべての観測地点で観測を開始してから最高だったことを発表しました。
上のグラフを見ると分かるように、大気中の二酸化炭素
の濃度
は、冬から春にかけて高く、夏から秋にかけて低くなるという季節変化をくり返しています。これは、光合成
を行う植物の活動が大きく関係しています。光合成
が盛んな夏から秋は二酸化炭素
をたくさん使うので濃度
が低くなり、盛んでない冬から春は濃度
が高くなるわけです。さらに、2009年の1年間の平均値で見ると、綾里が389.7ppm
、南鳥島が388.0ppm
、与那国島が389.4ppm
となり、年間の平均値で比べても過去最高だったことが分かりました(グラフでも、全体的に右上がりになっていることから、年々高まっていることが分かります)。この10年間を見ると、二酸化炭素
の濃度
は、1年間におよそ1.9ppm
(3地点の平均)の割合で増え続けています。
海洋環境を変化させる二酸化炭素の増加
二酸化炭素
は、地球温暖化
の原因となる温室効果
ガス(注1)のひとつとして、よく知られています。二酸化炭素
は、ものを燃やすときに発生
します。工業化が進み、人間が石油
や石炭
などをたくさん使うようになってから、大気中の二酸化炭素
の濃度
はどんどん高まり、現在、地球温暖化
が心配されていることは、みなさんもよく知っていると思います。さらに、この大気中の二酸化炭素
の増加が、海の環境にも大きな影響を与えてしまうことが分かってきました。それは「海洋の酸性
化」です。
学校で、リトマス紙
を使った酸
・アルカリ
の実験をやったことがある人も多いと思いますが、いろいろな水溶液
(すいようえき)の化学的な性質を表わす尺度に、酸性
度(pH
〈ピーエッチ〉:水素イオン
指数)があります。純粋な水
はpH
7の中性
です。これよりも水素イオン
の濃度
が高まると酸性
度が上がり酸性
と呼ばれ、pH
の数値は7より小さくなっていきます。逆に酸性
度が下がると数値は7より大きくなり、アルカリ性
と呼ばれます。二酸化炭素
は、水
に溶(と)けると酸性
を示します。海にはたくさんの二酸化炭素
が溶けていますが、これによって海水
の高いアルカリ性
が弱められ、現在の海水
は、およそpH
8.0~8.3で弱アルカリ性
です。しかし、より大量の二酸化炭素
が海水
に溶け込むと、さらに海水
のアルカリ性
が弱まってしまいます。これが海洋の酸性
化です。
大気と海水
では、つねに二酸化炭素
のやり取りが行われています。大気中の二酸化炭素
の濃度
が高まれば、それに見合った量の二酸化炭素
が海中に吸収され、低くなれば海中から二酸化炭素
が放出されます。最初に紹介したように、現在、大気中の二酸化炭素濃度
は上昇し続けているため、その分、海水
に溶け込む二酸化炭素
の濃度
も高まっており、海洋の酸性
化が進行しています。
海洋の酸性化と海洋生物への影響
大気中の二酸化炭素
の増加による地球温暖化
は、海のなかに暮らす生物たちにも大きな影響をおよぼします。地球温暖化
が進むと、海の表面が温められて、深いところの冷たい水
と混ざりにくくなってしまい、海の底にある栄養のもとになる物質が海の表面に届きにくくなってしまいます。それによってエサがへって、外洋の魚などの生物の数が減り、育ちにくくなるのではないかといわれています。しかし、このほかにも海洋の酸性
化によって、海の生物たちに大きな影響があることが分かってきました。
日本をはじめ欧米などの研究者が集まった国際研究チームが、2005年に「このまま海洋の酸性
化が進むと、100年以内に貝類の殻(から)やサンゴ
が溶け出してしまうだろう」という予測を発表し、世界中を驚かせました。この研究に参加し、さらに現在も海洋環境の変化と海洋生態系
についての予測研究を行っている、北海道大学大学院地球環境科学研究院の山中康裕准教授(じゅんきょうじゅ)は、「地球温暖化
のような気候の変動については、まだ不確かなことも多いのですが、海洋の酸性
化は、大気中の二酸化炭素濃度
が高まれば確実におきますし、それによって海洋生態系
に悪影響が出ることは間違いありません」と話します。
なぜ、海洋の酸性
化が進むと、貝類の殻やサンゴ
が溶けてしまうのでしょうか。貝類の殻やサンゴ
の骨格
は、炭
酸
カルシウム
でできています。プランクトンの仲間にも炭
酸
カルシウム
の殻をもつものがいます。海水
中には炭
酸
カルシウム
の材料である大量のカルシウム
イオン
と炭
酸
イオン
が含まれています。海のなかではこのカルシウム
イオン
と炭
酸
イオン
を使って、比較的かんたんに固体
(結晶
)である炭
酸
カルシウム
をつくることができるため、多くの生物が殻や骨格
として利用しています。ところが、海中の二酸化炭素
の濃度
が高まる(酸性
化する)と、その酸
(水素イオン
)によって炭
酸
イオン
が中和
されて(重炭
酸
イオン
になる)濃度
が低下し、炭
酸
カルシウム
がつくりにくくなってしまいます。そして、さらに酸性
化が進むと、炭
酸
カルシウム
が溶け出してしまうのです。特に水
温が低い海域では、よりつくりにくくなるため、北極や南極に近い冷たい海で生きる生物に大きな影響が出やすいと考えられています。
「海洋の酸性
化はゆっくりと進んでいくため、殻ができにくくなっても、それに適応して生きのびる方法を身につける生物も出てくるでしょう。酸性
化が進むからといって、どの生物も同じように影響を受けるとは限りません。しかし、海洋の酸性
化によって悪い影響が出ることは確かです。比較的暖かい海にいるサンゴ
にも、すでに影響が出ているという研究者もいます。今後は、長期的な視点で、酸性
化が進むと海のなかの生態系
がどのように変わっていくのかを研究していくことが重要だと考えています」と山中准教授はいいます。
地球温暖化
だけでなく、海洋の酸性
化として、増え続ける二酸化炭素
の悪い影響が出てしまうことが明らかになった今、大気中の二酸化炭素
を増やさないようにするにはどうしたらよいのか、自分たちの暮らしを見直すことが求められています。
注1:温室効果
ガスとは、地球が太陽
から受けた熱
を吸収して、地球の外へ逃がさずに地球の表面の気温
を高める働きをする大気中の物質のこと。二酸化炭素
をはじめ、メタン
、亜酸化
窒素
(あさんかちっそ)などがあります。水蒸気
も温室効果
が高いことが知られています。



