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今週のトピックス

島を消滅させる小さな生き物の正体

2007年08月13日    橘悠紀(科学ライター)

瀬戸内海に浮かぶ無人島・ホボロ島が、消滅の危機に瀕(ひん)しています。その原因は、わずか1cmほどの生き物だったことがわかりました。

昭和30年ごろのホボロ島。|写真提供:広島大学 沖村雄二名誉教授
2007年4月に撮影されたホボロ島。満潮時には、岩峰を残してほぼ水没してしまう。|写真提供:広島大学 沖村雄二名誉教授

小さな甲殻類が島を浸食

広島県東広島市安芸津町沖にあるホボロ島。昭和30年代には高さ約22m、東西約120m、大小ふたつの岩山が並ぶ島でしたが、現在は、大きいほうの岩山がなくなるなど、島はしだいに小さくなっていきました。

広島大学・沖村雄二名誉教授らが調査した結果、ナナツバコツブムシという体長1cmほどの甲殻類 が、島内で大繁殖 して無数の巣穴をほり、もともと風化 作用による軟岩化の進みやすい地質構成であったため、島の浸食が異常に早く進んだことがわかりました。このように、生物によって地形が変わるほど浸食された記録は、これまでほとんどなく、世界的にもめずらしい現象です。

ナナツバコツブムシ。全長は1.2cm。|写真提供:広島大学 沖村雄二名誉教授

ナナツバコツブムシが無数の穴をつくる

台風 のたびに島が小さくなる」「どうしてこ の島だけ小さくなるのか、原因がわからない」と不思議に思っていた地域の住民らは、地質学の専門家にその原因を調査してもらうことにしました。依頼を受けた沖村名誉教授らは、平成18年5月 から島の調査を始めました。すると、島全域の潮間帯*に無数の小さな穴があいており、その穴には体長1cmほどの、ダンゴムシのような生き物がすんでいることがわかりました。

「12cm四方・厚さ5cmの岩石のなかから80匹が出てきました。島全体では、数百万匹から数千万匹も生息 しているとわかったのです」。沖村名誉教授は、そのときの驚きを、このように語ります。ダンゴムシに似たその生き物の正体は、ナナツバコツブムシという甲殻類 でした。ナナツバコツブムシは、ダンゴムシに似ており、ボールのように丸くなることもできます。主にプランクトンや、生き物の腐肉を食べているといわれています。特徴的なのは、下あごのかたい歯で岩をほり、巣穴をつくることです。島にあった無数の穴の正体は、ナナツバコツブムシの巣穴だったのです。穴があいたためにもろくなった岩は、波 によってこ わされやすく、結果として、だんだん島が小さくなったというのが調査の結論です。

なぜこの島にナナツバコツブムシが大量に繁殖 しているのでしょう。いくつかの原因が考えられますが、一つは、この島に、ナナツバコツブムシの食べ物が多いこと、そして、巣穴にすむことで魚などの天敵 から身を守ることができるからでしょう。もう一つの原因は、ホボロ島の地質にあります。ホボロ島は、火山灰 や噴石が積もった「デイサイト溶結結晶 凝灰岩 」という、ナナツバコツブムシが巣穴をつくるのに都合がよい風化 しやすい(軟岩化する)岩石からできているのです。

沖村名誉教授は、「実は、ホボロ島の近くでは、他にもナナツバコツブムシのせいでなくなってしまったと思われる岩礁が見られます。こうした岩礁は、将来のホボロ島の姿ではないでしょうか」と言います。現在のホボロ島は、高さ6mほどの岩石が島の西端に見えるだけで、満潮になると島のほとんどが海面下に沈んでしまいます。あと数十年で、島は完全になくなってしまうと推測されています。通常、風と波 による浸食では数千年から数万年かかるものを、わずか数十年で消滅させてしまう生き物の力 は、まさに驚きです。

*潮間帯…満潮時には海面下になり、干潮時には陸になる領域。海藻 類や動物などが豊富。


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